天命人となり、孫悟空を蘇らせるべし――西遊記の“その後”を描く『黒神話:悟空』レビュー
GAME SCIENCEが開発した新作アクションRPG『黒神話:悟空』をクリアした。中国神話を舞台に、高精細なグラフィックで描かれる仏閣や妖怪たちのユニークさに目を見張るとともに、これまでのゲームではあまり語られることのなかった土着の民話を基にしたロアをじっくり読み込める、とてもユニークな一本だった。 【画像】西遊記の“その後”を描く『黒神話:悟空』のスクリーンショット 反面、バトル部分についてはまだまだ改良の余地があるうえに、後半は最適化不足によるフレームレートの低下や、強制終了も目立つ作品だった。それぞれ細かく見ていこう。 ■孫悟空のその後を描く意欲的なストーリー 本作は取教の旅を終え、自らの故郷である花果山に戻った孫悟空が、道教の神である顕聖二郎真君に襲われるところから始まる。 顕聖二郎真君によって再び石の卵に封印されてしまい、それに加えて各地の妖王たちが彼の封印を解くために必要な六根を奪ってしまったために、何世代ものあいだ沈黙することになってしまった孫悟空。そこでとある一匹の猿が、六根を取り戻して孫悟空を蘇らせるために、旅に出ることに決めたのだった。 西遊記のその後ということもあり、舞台や世界観はとても魅力的だ。霧深い深山幽谷を練り歩くのは、人に化けた虎や鼠の妖怪たちで、棍や槍を振り回して襲い掛かってくる。中世ファンタジーやSFを得意としてきたビデオゲームにおいて、なかなか登場しえなかったユニークなキャラクターばかりで、新鮮な驚きが何度もあった。 彼らザコ妖怪ひとりひとりに豊富なロアがあり、詩の部分は漢文の書き下し文で、本文は昔話のようなスタイルで訳されている。すべて読み込んでいくだけで何時間もかかるような大ボリュームで、それぞれにちゃんと味わい深いオチがついている。 加えて、中ボスクラスより上位の妖怪は、そのステージ内で語られるストーリーを補完するような内容になっているため、読み込んでいく意味があるのも素晴らしい点だ。ストーリーの区切りがついたタイミングで、世界観を掘り下げるためのアニメーションが挿入されるのも面白い。 発売時点では、3章から先のロアに一部未訳の部分があり、早急に対応してほしいところだが、この芳醇な世界観に浸るという目的だけでも、本作を買う価値はあるだろう。 ■「ソウルライク」と呼べる体験なのかどうか 本作の難易度やゲーム体験について、開発者が「ソウルライクではなく『ゴッド・オブ・ウォー』のような体験を目指した」と発言していたことなどから、本作をどう位置付けるかについてユーザーのあいだでも議論がなされている。 筆者としては、難易度が単一であること、各地のセーブポイントで全回復を選ぶと雑魚敵も復活すること、戦闘において1vs1の状況を作ったり回避を主体としたアクションをこなしたりする必要があること、テーマに沿ったダンジョンでひたすらバトルを繰り返しつつNPCイベントも少し用意されていること、戦闘中を始めとする一部のUIがソウルシリーズに似通っていること……などから、本作には(開発者がどう受け取ってほしいかはさておき)ソウルライクのエッセンスが多分に盛り込まれているのは間違いない、と感じた。 もちろん「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズのように、巨大な神話生物と相まみえるシーンもいくつかあるが、印象的なカットシーンに限られている。 とはいえ、ユーザーひとりひとりがどう感じたかはお任せする点であり、さして重要ではない。ここで筆者が言いたいことは、『黒神話:悟空』は「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズのように難易度を自由に変更できるものではなく、ソウルライクのようにストーリー進行上のボスがとても強いので、どう倒したらいいか悩む瞬間が多々あるということだ。 本作にはレベルとスキルツリーの概念があるため、しばらくザコ敵を相手にファームするという選択肢も取れるが、本質的にはボスの苛烈な攻撃を凌いだ達成感を味わってもらおうという設計である。そういった作為のゲームに苦手意識がある方は、心してかかる必要があるだろう。 ■ダイナミックでカッコいいが、痒いところに手が届かない戦闘 本作の体験の大部分を占めているのが、戦闘だ。基本的には敵の連撃を華麗に避けて、棍や法術を叩き込むというオーソドックスな3Dアクションになっている。 髪を引っこ抜いて分身を召喚したり、棍に飛び乗って上空から叩きつけたりと、西遊記らしいアクションが満載で、見ている分には非常に面白い。孫悟空になりきって遊ぶという意味ではこれ以上ない体験と言えるだろう。 しかしながら、幾度となく苛烈な戦いを強いられる割には、細かいところで配慮がなされておらず、常にほのかな不満が付きまとっていたのも事実だ。 まず、ボタンのレスポンスについてだ。本作は戦闘中にL1ボタンで瓢箪を使用することで生命力を回復することができるのだが、攻撃や回避といった基本の行動中に押しても反応しないことがある。ちゃんと地に足を着けて何もしていないときに入力しなければいけないのだ。 それ自体は理にかなっているとは言えるが、せめて効果音や動作などで、使用可能かどうかの判別ができるようにしてほしかった。減った生命力を回復するためにL1ボタンを押しておいたと思ったら、主人公は何もせずに突っ立っており、次の敵の攻撃で倒された……というような間抜けな状況が何度も起きた。これは消費アイテムにおいても同じである。 また、L2+R2ボタンで変化の術を用い、一定時間特定の妖怪になって戦うことができるのだが、この同時押しが非常にシビアで、L2だけが反応することが多々ある。その結果、敵の眼前で遠距離攻撃をしのぐための攻撃(L2長押しで発動)をし始めて、やはり余計なダメージを受けるということがよく起きた。 さらに、ボスの中でもとりわけ再チャレンジが多かったボスに関しては、結局のところ、攻撃をワンテンポ遅らせて行ってくるいわゆるディレイ攻撃を多用してくるパターンばかりで、これは昨今のソウルライク全般に感じる問題がここでも見られていると感じた。 プレイヤーはボスの予備動作を見てからしっかりと回避を行っているのに、それをすることを見越したかのようにボスが回避の終わり際の隙に向かって攻撃を振り下ろしてくるというのは、プレイヤーの工夫や学習を嘲笑っていることに等しいので、何も面白くはないと思っている。まだ、ボスが卑怯極まりないという個性のキャラクターならわかるが、武人や獣までそれをしてくるのはおかしい。 などなど、ベースは良くできているからこそ、もっと練り上げてもらいたいところが多かった。ボスの見た目やキャラクター性はオリジナリティに溢れていて素晴らしいのだが、いざ戦ってみるとどこかで見たことのあるバトルになってしまっているというのも惜しい点である。 ■その他の気になる点 すでに多くのユーザーが指摘している通り、探索について難儀する点も多かった。木漏れ日が降り注ぐ古寺や、牛魔王の居城である活火山など、独特で素敵なロケーションばかりなのは良いのだが、いかんせん美しすぎるがゆえに、どこからどこまでが行動範囲なのかがわかりづらかった。範囲外は透明な壁で仕切られているのもちょっとダサい。 とはいえ、ただ単にミニマップを用意してしまうと、その通りに進むだけの味気ない体験になるだろうことは想像がつくので、神秘さを残したまま遊びやすく探索しやすいデザインを目指すのはかなり悩ましい点だろう。そういう意味では、セーブポイントである祠が近付くと、金色の光で誘われるというのは、かなり良い配慮だったように思える。 また、フレームレートについても少し触れておきたい。筆者は本作をPlayStation 5でプレイしたが、3章以降はガクッと落ちる瞬間もよく見受けられた。特に最終章のマップはとあるダイナミックなギミックが追加されることもあり、それが悪さしていて、何度か強制終了することもあった。最適化についても今一歩練り込み不足と思わざるを得ない。 ■総評 主にバトルにおいて、細かく気になる点が多く、ゲーム側が楽しませようとするところ以外で苛立つことは多かったが、西遊記の世界を横断するダイナミックなストーリーと、中国神話からそのまま飛び出してきたような妖怪とキャラクターたちは、筆者の心を鷲掴みにしてくれた。 終わってみれば、これは単なるミッションやクエストではなく、まごうことなき「天命」であったのだと、そう感じさせてくれるような崇高な体験でもあった。3DアクションRPGというフォーマットに、中国神話の持つ空気感をしっかりと落とし込んだ唯一無二の作品であることは間違いないので、まだ誰も見たことのないダークファンタジーに興味がある方は、ぜひともやってみてほしい。
各務都心