生活保護の申請ためらわせる「働かざる者食うべからず」 新たな時代のため…専門家の問題提起
憲法にある国民の三大義務の一つ、27条の「勤労の義務」は私たちの社会、特に社会保障制度にどのような影響を及ぼしているのか-。福岡大の山下慎一教授(社会保障法)がそんなテーマで新書を刊行した。この義務は「働かざる者食うべからず」という倫理観と関連し、生活保護の申請などをためらわせていると指摘。「働くことと社会保障を切り離さないと、働き方が変化する新たな時代に対応できない」と問題提起している。 【画像】勤労の義務や社会保障に関するアンケートのQRコード タイトルは「社会保障のどこが問題か-『勤労の義務』という呪縛」(ちくま新書)。憲法27条第1項には「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ」とある。前著「社会保障のトリセツ」は、困った時にどう社会保障を使いこなすかの市民向けのノウハウ本だった。新書ではそこから踏み込み、ノウハウが必要なほど複雑で使いづらく、申請の際に“後ろめたさ”を感じる背景を探った。 その代表例は、最後のセーフティーネットである生活保護だ。 新書では「働きもせず受給するのはけしからん」などと批判されることがある生活保護は「稼働(働いて収入を得ること)能力」を使う意思と就労の場を探すことが条件であり、「簡単に受給できる仕組みにはなっていない」と強調。不正受給の背景も丁寧に検証しながら、他者が生活保護を受給する際に否定的な感情が生じるのは、勤労の義務や「働かざる者…」という倫理観が社会に根付いているため、とみている。 そこに焦点を当てるのは、労働者と、自営業者・フリーランスとの区別がつきづらくなる未来が迫っているためだ。例えば、一般の人が客を運ぶ「ライドシェア」が情報技術の発展で広がれば、会社所属の労働者と自営業者らに仕事の違いは一層見えにくくなり、働き方によっては労働者でもあり、自営業でもあるケースも出てくる。 新書は年金、健康保険、雇用保険、労災保険という四つの社会保障制度の歴史的な経緯を振り返りながら、自営業者より、労働者の方が充実した制度になってきたことも解説している。 今後の社会保障を考えていく上で「働くことと社会保障を切り離す」必要性を新書では提起している。 新書は920円(税別)。 (竹次稔)