国際線777-300ER、札幌・伊丹・那覇も投入 特集・JALはA350全損をどう補うのか
「大型機1機減は大変残念」。日本航空(JAL/JL、9201)の赤坂祐二社長は、今後の機材計画を私が尋ねた際にこう応じた。羽田空港で1月2日に起きた海上保安庁機とJAL機の衝突事故により、国内線用の大型機エアバスA350-900型機が1機(登録記号JA13XJ)全損となり、JALは同型機を1機追加発注する方針だが、受領まで2年程度かかるとみられ、当面は予備機や他機種の活用で乗り切ることになる。 【写真】JAL 777-300ERのファーストクラス しかし、日々の運航では機体の定期整備や予期せぬトラブルなど、さまざまな事態に対応しなければならない。1月以降、JALの国内線幹線の機材繰りを見ていると、長距離国際線機材のボーイング777-300ER型機が時折投入されている。2023年10月30日から羽田-福岡線の一部便に投入されているものの、事故前は機材繰りなどを除くと国内線投入は羽田-福岡線に限られていた。 1月2日の事故発生以降、777-300ERは国内線でどのように活用されてきたのか。また、これまで投入実績のある札幌(新千歳)、伊丹、福岡、那覇以外に投入する可能性はあるのだろうか。 ◆国際線ファーストクラスを国内線で JALは新たな長距離国際線機材となるA350-1000を1月24日に就航させ、2024年度は8機体制を計画している。20年前の2004年に就航した777-300ERの後継機で、同数の13機を導入する計画だ。A350-1000がエアバスから予定通り引き渡されると、2026年には777-300ERからA350-1000への置き換えを終えるとみられる。 一方、777-300ERは売却までの期間、国内線の幹線にも投入。2023年10月30日から羽田-福岡線の一部便を担っており、初便は羽田発福岡行きJL305便(JA731J)となった。国際線運航時の座席数は4クラス244席で、ファースト8席、ビジネス49席、プレミアムエコノミー40席、エコノミー147席だが、国内線ではファーストを国内線ファーストクラス、ビジネスをクラスJ、プレエコとエコノミーを普通席として販売する。 国内線機材で運航する便と異なるのはシートのみで、機内サービスの変更はない。それでも国際線ファーストクラスの気分を国内線で味わえるとあって、静かな人気を得ているようだ。 福岡線に投入後、11月18日の羽田-札幌線(JL515/514、JA743J)、12月24日の羽田-伊丹線(JL117/120、JA734J)にも投入されたが、JALによると機材繰りなどが理由だったという。 ◆中型機並みの244席 JALの国内線唯一の大型機となったA350-900の座席数は、3クラス369席の「X11」仕様がファーストクラス12席、クラスJ 94席、普通席263席、「X12」と呼ばれる3クラス391席仕様はファーストクラス12席、クラスJ 56席、普通席323席で、クラスJを38席減らした分、普通席を60席増やした。JALの国内線機材で座席数が最も多いX12仕様機は、普通席が多いことから観光需要が見込める路線や繁忙期などに適している。 全損となったA350-900の13号機は、369席のX11仕様だった。このため、仮に777-300ERを13号機で飛ばす予定だった便に入れると、単純計算で125席不足する。A350で運航する便で、予約率が66.1%であれば777-300ERに全員を振り替えられるが、中型機並みの座席数のため搭乗率が高い幹線の機材調整は容易ではない。 JALが国内線に投入している中型機は、787-8の国内線仕様機(E21仕様)が3クラス291席でA350-900に次ぎ座席数が多いが、それでもX11仕様と比べて78席不足し、そもそも4機しかない。767-300ERの国内線仕様機は3クラス252席(A25仕様)と2クラス261席(A27/A28仕様)があるが、いずれもX11仕様と比べると100席以上不足する。 高需要の路線や便に優先してA350-900を投入し、整備計画や需要動向を見ながら玉突きで調整していく機材繰りの“職人芸”が求められると言えるだろう。 ◆那覇も1月から 1月に入ると、11日の羽田-那覇線(JL921/920、JA732J)にも777-300ERを投入。那覇線は10月30日以降に運航実績があったものの、便名が900番台の定期便は1月11日が初投入だった。 羽田-福岡線以外への777-300ERの国内線投入は、当紙の調べで1月は3路線28便。羽田-伊丹線が7日から30日までに10往復20便、羽田-那覇線は11日から22日までに3往復6便、羽田-札幌線は16日に1往復2便が投入された。 1月7日から10日は伊丹線、11日は那覇線、15日は伊丹線、16日は札幌線、18日は那覇線、20日と21日は伊丹線、22日は那覇線、29日から30日は伊丹線となっており、伊丹線でも特定の便に入る期間もあれば、日ごとに異なる便に投入している日もあり、規則性はないようだった。 JALによると、777-300ERの国内線投入は、機材繰りや販売状況などを勘案して決めているといい、1月についてはA350-900が1機減になった影響が大きかったという。 2月は羽田-福岡線のほか、7日に那覇線(JL907/908)と伊丹線(JL131/134)、10日に伊丹線(JL127/130)、13日から15日までは札幌線(13日はJL503/504、14日はJL527/528、15日はJL503/504、527/528)、17日は伊丹線(JL131/134)に投入されており、2月前半は札幌線が比較的多く、15日は2往復4便を運航した。 ◆石垣は「予定なし」 では、今後の777-300ERの国内線投入はどのような予定なのだろうか。JALによると、3月は羽田-福岡線以外では羽田-札幌線への投入を予定しているという。 また、フライトタイムが長い羽田-那覇線も、これまで投入実績があることから「今後も可能性はある」としている。一方、2023年12月に退役した中距離国際線機材の777-200ERが投入された羽田-石垣線は「現時点では予定していない」とのことだった。 いずれにせよ、羽田-福岡線以外は機材繰りなどにより、その時々で投入が決まるものといえる。 ◆ ◆ ◆ A350-1000の就航計画に合わせ、国内線にも姿を見せ始めた777-300ER。長距離国際線機材のため座席数は4クラス244席で、かつて国内線を飛んでいた777-300(2クラス500席:クラスJ 78席、普通席422席)と比べて座席数は半分ほど。1機減のA350-900を、そのまま穴埋めすることは難しい。 一方、機齢が約20年と退役間近であり、今から客室を改修することは現実的ではなく、機材繰りを調整していく中で、244席のまま投入便を調整することが、もっとも現実的な対応だと言える。 機体メーカーやサプライヤーは、今も世界的なサプライチェーン混乱の影響を受けており、航空会社やリース会社からの既存発注分を計画通りに納入することにも苦労しているようだ。こうした中、JALが追加発注するA350-900も、1年から2年程度は待たなければならず、しばらくは乗客の目には見えないところで関係者の奮闘が続く。
Tadayuki YOSHIKAWA