「空海の教え」が、インバウンド客を招く! 高野山のあるお寺に外国人が集まるワケ
顧客獲得はネットと口コミで
──多くの外国人宿泊者から高い評価を受けていますね。特に気を付けている点は何ですか? 深山 トリップアドバイザーをはじめとする、ネットやSNSにおける書き込みへの対応です。 たとえば「朝も大浴場に入りたい」といった書き込みを発見した際は、すぐに手配いたしました。できる限りのことをしてネガティブな指摘をどんどん改善していくようにするとお客様の満足度が上がっていき、リピーターや新規客が増えていきます。 ──お寺でそういうことをなさるのは珍しいように思います。どんな思いがあるんでしょう? 住職 私たちは、どんな意見も積極的に取り入れるようにしています。 たとえば、宿選びの基準になるような各要素やアメニティ設備などについては、ネットの書き込みのほか、私の妻からのアドバイスを大いに参考にしています。そうした「外の世界」から高野山や当院を見たときの意見はとても重要だと考えています。 深山 住職の「話を聞く」「個の意見を尊重する」姿勢はここで働く人たちのモチベーションアップにも繋がっている気がします。たとえば、当院でおこなっている体験型コンテンツにおいても、私自身の考えでどんどん幅を広げることができ、やりがいになっています。 住職 当院でおこなう勤行や瞑想などの体験型コンテンツは外国人観光客には大人気なんですが、実のところ、もともとやっていたことを英語でやっているだけです。そこにお客様や現場で働く人の意見が加わって、さらにいいものへと発展している状態です。
丁寧な説明は「空海の教え」が礎に
──外国語で日本文化や宗教について伝えるのは難しいように思います。どんな工夫をしていますか? 深山 まず、いらっしゃる方すべてが英語のネイティブではなく、英語レベルがそれぞれに違うことに注意します。それぞれに合わせながらも、基本的には大人でも子供でもわかるような表現を使うようにしています。 ゆっくり喋り、集団の前で話す内容と個人に対して話す内容を分けています。大切なことは、口頭だけでなく書面でも説明します。 避けるべきは「わからない、伝わらないからといって、何もしない」ことです。いただいた質問には、可能な限り全力で答えます。私たちはスマホを常に持っていて、画像で説明するときもあります。その場で答えられなくても、その方に後日メールを送ってお返事いたします。 「お寺で働く人とコミュニケーションが取れた」という体験は、お客様にとっては忘れられないものとなるようです。 細やかな対応を続けるうちに、友達や家族といった親しい人同士の口コミがじわじわと広まり、評判を聞きつけた方がさらなるお客様を連れてくるという循環が生まれました。結果、教養の高い方や多文化理解に関心のある方がコアな客層として定着しました。 ネットの評判は大切ですが、ネットの時代だからこそ、一番信用できるコネクションはリアルな人間関係から発生するのだと実感しています。 ──背景には、どんな狙いがあるんでしょうか? 住職 大乗仏教である真言宗の教えは、「すべての人を救う」ことです。 いらっしゃる方は、キリスト教やイスラム教などさまざまな宗教や文化的背景を持っています。ですが、高野山にいらっしゃったからには、真言宗・空海が紡いだ歴史と教えを可能な限りお伝えしなければなりません。 私たちの気持ちが伝わった方たちは、高野山や当院の「ファン」となり、コアな客層となってくださいます。外国人観光客のなかには数年間で5回以上ご利用された方、結婚や出産などライフイベントの度に宿泊なさる方もいらっしゃいます。