「1分で意見書の草案完成」…法曹界を揺るがす「法律AI」=韓国
15社を超えるリーガルテック企業でサービス運営 雇用減少、誤った判例でっち上げる「ハルシネーション」などの問題も
「このような労災事故が発生した時は、どのような争点が問題になるだろうか」 法律事務所入社1年目のキム・ジヌ弁護士(29)が、法理的争点をまとめてくれる弁護士専用人工知能(AI)の検索バーに質問を書いた。そうやって絞られた争点の具体的な判例を探す時も、AI判例検索サービスを活用する。キム弁護士は「パートナー弁護士」(法律事務所の共同経営者)の業務を補助する「アソシエイト弁護士」だ。キム弁護士は「AIサービスを活用すると、自分が『アソシエイト弁護士』とともに仕事をしているような気がする。検索結果を自分で確認する必要があるが、それでもはるかに業務が速くなった」と語った。 法曹界にAIブームが起きている。韓国国内だけで15社以上のリーガルテック企業が法律AIサービスを運営している。機能も日を追うごとに向上している。判例検索の提供にとどまっていたAIは、今や資料分析と書面作成まで領域を拡大している。「ロートーク」(デジタル法律相談サービス)を運営するリーガルテック企業の「ローアンドカンパニー」が最近発売したAIサービス「スーパーローヤー」は、2カ月で3500人以上の会員を集めた。スーパーローヤーは法律の検索、書面草案の作成、文書要約、事件基盤対話などのサービスを提供する。主要争点の整理や判例の検索だけでなく、申請書や書面草案の作成などを1分30秒以内に処理することも可能だ。LBOXが4月にベータバージョンを発売した「LBOX AI」は、従来の文書要約機能などに加え、判例検索サービスを新たに導入した。LBOXに会員登録した弁護士は2万人以上で、この内「LBOX AI」の会員は約4500人だ。 リーガルAIソリューション企業の「BHSN」は1月から企業契約や法務管理、訴訟記録分析を支援するクラウド基盤AIサービスを運営している。このサービスは企業を対象に契約管理ソリューション(CLM)、企業法務ソリューション(ELM)などを支援する。 韓国政府もリーガルテック事業の振興に積極的に乗り出している。韓国知能情報社会振興院(NIA)は「超巨大AI拡散環境づくり事業」の遂行企業としてインテルコンとLBOXを選び、政府支援金を通じてサービス開発を後押しする予定だ。情報通信産業振興院(NIPA)はローアンドカンパニーなどを「AI法律補助サービス拡散事業新規課題」企業に指定した。大手の法律事務所も専門チームを構成したり、独自のデータベース基盤システムを運営したりしている。国内最大の法律事務所の「金・張法律事務所(Kim & Chang)」はデジタルフォレンジックシステムにAIを融合させており、「法務法人律村」は生成AIタスクフォース(TF)を構成し、国内の主要情報通信(IT)企業と協力して独自の法律データを開発している。独自のAIリーガルテックシステムを構築したり、チャットボットサービスの開発などを進めている法律事務所もある。 しかし、法曹人のオンラインコミュニティでは、法律AIサービスが続々と発売されたことで、新人弁護士の働き口が減るのではないかという懸念が広がっている。入社1年目のコ・ジヘ弁護士(27)は、「現在もアソシエイト弁護士が1時間かけて判例を検索しなければならないことを、法律AIサービスは1分以内に済ませる。さらに技術が発展すれば、すべての草案をAIが作成し、新人弁護士は必要がなくなるかもしれない」とし、「弁護士雇用市場の悪化につながるだろう」と語った。 技術的な問題もある。代表的なのが「幻覚(ハルシネーション)」問題だ。ハルシネーションはAIが実際にはない情報を生成したり、事実ではない情報を事実のように言う現象だ。企業はハルシネーション現象を最小化すると言っているが、誤った判例を紹介するなど問題が発生する可能性がある。今年3月、米国ではある弁護士がリーガルテックサービスを活用したが、存在しない判例を裁判所に提出し、1年間の弁護士資格停止処分を受けた事例もある。これについてLBOXのキム・ユスン取締役は「弁護士一人が生みだせる生産力を上げる道具であるため、市場に及ぼす肯定的な効果の方が大きいだろう」とし、「法律文書を技術を通じて一度スクリーニングして提供するため、ハルシネーションをかなり抑えている」と語った。 AIサービスの規制をどこまですべきかも争点になっている。法律事務所「大陸亜州」は3月、チャットボットが一般人の法律的質問に答える「AI大陸亜州」サービスを始めたが、大韓弁護士協会(弁協)の調査委員会は9日、弁護士ではなくAIで弁護士業務をすることは弁護士法違反だとし、懲戒委員会に付託することにした。ただし、弁護士を対象にしたAIサービスについては、まだ慎重な立場だ。弁協関係者は「慎重なアプローチが必要であり、むやみに技術発展を阻み、懲戒をしようとしているわけではない」とし、「技術の形および目的、扱う者に関する内容などを総合的に検討している」と語った。 法務部も2021年9月、学界と実務専門家などで構成された「リーガルテックTF」を立ち上げ、産業育成のための制度改善、弁護士制度の公共性確保策などを議論してきたが、3年が過ぎてもこれといったガイドラインなどを出せずにいる。法務部関係者は「産業界と弁護士団体など各界各層の意見を取りまとめ、議論を続けていく計画」だと話した。 チャン・ヒョヌン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )