歯止めの効かない中国の「不動産倒産連鎖」についに政府が「救う会社、救わない会社リスト」を作成…これから中国経済が直面する“失われた30年”
中国経済が直面する「失われた20年ないし30年」
不動産バブルの崩壊以降、一部の研究者の間で中国経済の日本化が議論されている。現象面では似ているところがあるかもしれないが、本質的には異なる問題だ。 米国スタンフォード大学客員研究員の許成鋼(専門は理論経済学)は、目下の中国経済は構造的に、政府による経済統制という点で1970年代のソ連経済とよく似ていると指摘している。 30年前の日本のバブル崩壊は、基本的に市場の失敗だった。後処理の段階で政府が失敗を犯し、立ち直るのに時間がかかり、失われた30年を喫した。 それに対して、中国の不動産バブルとバブル崩壊は、政府の失敗が引き起こしたものだ。 中国政府は不動産開発を経済成長の牽引役として位置づけた。土地の公有制を堅持し、不動産課税、すなわち、固定資産税は導入してこなかった。 そのため個人にとっての不動産投資は、低コストでよりたくさんの不動産を所有する一攫千金のゲームとなった。不動産投資ブームについて習政権執行部も危機感を抱き、習主席自身は「家は住むためのものであり、投機の対象ではない」と発言したが、投資の禁止を呼びかけるだけでは意味はなかった。 過度な不動産保有を制限したいのならば、不動産関連の課税を導入する必要があったのだ。 不動産投資は個人の自由として法的に認められている。不動産投資が過熱したのは、地方政府やデベロッパーの不正行為に加え、個人にとって機会コストが安いからである。 過熱し過ぎた不動産投資を冷やすためには制度を改革する必要があるが、政府共産党は政策を立てるよりも先に市場に直接介入しがちである。 政府共産党の市場介入は即効性がある半面、経済のハードランディングをもたらすリスクも高い。習主席の呼びかけは市場を直接統制するものであり、往々にして逆効果となる。
中国のデフレはどうなる?
2023年末現在、習政権は金融緩和政策をもって不動産バブルの崩壊を食い止めようとしているように見える。しかし、年末に開かれた共産党中央経済工作会議で習主席が行った演説をみるかぎり、具体策は打ち出されていない。 現状において不動産デベロッパーを救済する融資を実施しても、問題の解決を先送りするだけである。重要なのは構造改革だ。 日本の場合は、バブル崩壊の後処理を行うのに30年かかった。はたして中国は何年かかるのだろうか。現段階では断定することはできないが、日本経済を取り巻く外部環境と中国経済を取り巻く外部環境を比較すると、両者の立場は大きく異なると言える。 日本のデフレは30年間続いたが、輸出製造業は順調に日本経済を支えていた。それに対して、中国には米中対立とサプライチェーンの再編という壁が立ちはだかる。習政権は目の前の状況の深刻さを十分に理解しておらず、国内循環、すなわち、自力更生で経済成長を実現しようとしているようだ。 しかし、中国の経済構造は輸出依存であり、内需だけで成長を持続させるのはそもそも無理なことである。 最近、中国国家統計局報道官の記者会見を聞いていると、都合の悪い経済統計を言葉で粉飾しようとする傾向が強くなっている。具体的な経済統計をいわずに、経済が改善に向かっているというように言葉を濁す場面が多い。 実際のところ、不動産バブルは崩壊して、経済が回復する力は弱くなっているはずだ。国家統計局が正しい統計を発表しなければ、ポリシーメーカーは正しい政策を考案する根拠をもてない。このままいくと、中国は失われた20年ないし30年を喫する可能性が高くなる。 写真/shutterstock
---------- 柯隆(か りゅう) 1963年、中国・南京市生まれ。88年来日、愛知大学法経学部入学。92年、同大学卒業。94年、名古屋大学大学院修士課程修了(経済学修士号取得)、長銀総合研究所入所。98年、富士通総研経済研究所へ移籍。2006年より同研究所主席研究員。18年、東京財団政策研究所に移籍、現在、同研究所主席研究員。静岡県立大学グローバル地域センター特任教授を兼務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) ----------
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