音楽検索マニアを悩ませていた「17秒の曲」の正体が明らかに 米
みんなが求めているものを提供するつもりだ
ー「Ulterior Motives」の歌詞のヒントになったのは何だったか、覚えてますか? クリストファー:ああ、浮気した女の子だよ。口ではこう言いながら、ふたを開けてみると全然違ってたっていうね。 フィリップ:「Everyone Knows That」という歌詞にちなんで、巷では「EKT」と呼ばれてたんだろ。歌詞を投稿したら、ファンは「そうか、thatじゃなくてitだったんだ!」って言ってた。 クリストファー:音源が残ってるかどうかを確かめるのに、40年分のテープを掘り起こさなきゃならなかった。見つからなかったら、最初から収録し直すつもりだった。今あの高音を出すには、相当気合入れなきゃならなかっただろうけど。とりあえずリズムトラックは見つかったので、今はボーカルトラックを探してるところだ。見つからなかったらスタジオに入って、できるだけオリジナルに近い形で録り直すつもりではいる。ただし、現代のレコーディング技術を使って今っぽいサウンドになるようにする。とにかくやってみて、みんなが求めているものを提供するつもりだ。ヒットするかどうかは分からないけど、やれないことはないと思う。 フィリップ:ピーター・ガブリエルにしろガンズ・アンド・ローゼズにしろ、みんな今も新しい作品を作ってるけど、世間が聴きたがってるのは40年前の懐かしソングだっていうのと同じだね。ファンを喜ばせるのが大事だと思うよ。自己満足に浸ってちゃいけない。自分自身もこの曲がこんなにキャッチーだと気づいていなかった。それが今じゃ、自分でも歌わずにはいられない。すごいのは、音源を探しているうちに当時手がけた似たような楽曲がアルバム1枚分ごっそり出てきたんだ。「アルバムとして出すべきだ」ってみんなから言われてる。人生ががらりと変わったよ。 クリストファー:冬眠から目を覚ますには相当のエネルギーがいるけどね。 フィリップ:とにかく、このタイミングを逃したくない。もう自分たちだけの話じゃなくなってるしね。 ー失われた音源探しコミュニティはチェックしてみましたか? クリストファー:いまだに圧倒されてる状態だから、まだチャンスがないんだ。いろんな記事やRedditは読んだよ。コミュニティの全体像をつかむために、TikTokのストーリーやYouTubeの動画もたくさんフォローしたり。 フィリップ:carl92というユーザーは、アダルト映画でこの曲を耳にしたと白状するのが嫌で姿を消したらしいね[編集部註:後にWatZatSongから姿を消した匿名ユーザーは2021年に投稿した音源について、音声の抜き出し方を覚えた頃に『バックアップ用のDVD』で見つけたと主張していたが、具体的にどうやって入手したのかは不明]。まあ、carl92には相当感謝しなくちゃ。Sweeney Toddで一緒にプレイしていたもう1人の兄弟Johnny Bにも電話して、「あの曲覚えてるか?」って聞いた。「もちろん」って言うんで、ちょうど読んでいたローリングストーン誌の記事を送ってやった。あいつも昔から生粋のミュージシャンで、ローリングストーン誌はずっと大リスペクトしてたんだ。3人であの曲をもう1回やろうって言った。こういうことはめったにあることじゃない。実際よりも大きな力が働いてるに違いないんだ。待ちきれないよ、感謝の気持ちを伝えて、この興奮を分かち合いたい。 ー他の未発表音源について、教えていただけることはありますか? クリストファー:ティファニーやニュー・エディションを手がけたプロデューサーと制作した楽曲がわんさと見つかった。当時のサウンドはああいう方向性で、かなりよく仕上がっていた。カバーもたくさんやった。テンプテーションズの「Just My Imagination」のカバーは最高だった。スタジオ収録の音質なので、リマスターも可能だ。「Ulterior Motives」に関してはリズムトラックが手元にあるので、そこにギタートラックを加えるつもりだ。80年代のシンセギターでね。 フィリップ:、「あのギターのサウンドはどうやって出したのか?」とよく訊かれるんだ。当時はMIDIギターっていうのがあってね。MIDIギターでは入力が2つあって、ひとつはジャックからギターのヒズミを拾って、もうひとつはキーボードの音を出力する。演奏するとキーボードの音とギターのヒズミが同時に出てくるんだ。 クリストファー:ボーカルも録り直そうかな。やれる自信はあるよ。13歳の女の子みたいな声だけど。ニュー・エディションとか、昔はああいうサウンドが求められてたんだ。 フィリップ:TikTokやYouTubeでは声を分析してフィルターをかけてる人もいたね。 クリストファー:ああ、どうやら俺は日本人の女の子らしいよ! フィリップ:(音源探偵の口ぶりをまねて)「最初は男性だと思っていましたが、捜査を進めた結果、アクセントから日本人の女の子の声に聞こえます」だってさ。笑っちゃうよな! クリストファー:この後は曲をリリースして、好評してもっと聴きたいって言われたら、似たような楽曲を集めたアルバムを1枚リリースするつもりでいる――カルチャー・クラブ、デペッシュ・モード、ジョージ・マイケル、ABC、80年代に僕らが影響を受けたような人たちのようなサウンドだ。実はレコード契約でイングランドに行って、キャピトルレコーズと契約したこともあったんだ。理由はさておきいろいろあって、そっちは上手くいかなかったけど。それで映画作りをするようになった。音楽活動も続けてたけど、あのころは映画音楽の方がメインだった。 ー昔使っていた機材は今もお持ちですか? フィリップ:今もMIDIギターはあるよ。昨日引っ張りだしてきたところだ。ビデオもいくつか撮影しようかな。 クリストファー:天に運を任せるよ――最近ふと、昔の70年代のシンセサイザーをまた使ったらどうだろう、って考えが浮かんだんだ。なぜかは分からないけど、ムーグとかをもう一度引っ張りだしてみようという考えが頭から離れないんだ。昔キーボードの技術担当としてキース・エマーソンと仕事をしたことがあって、自分のスタジオにもいろんなキーボードを入れ始めたことがあったけど、その時からつながっているんだと思う。 フィリップ:その手の古い機材は今もある。名器と呼ばれたドラムマシンLinn Drumとかね。「Linn Drumの音であることを突き止めた」と言ってたネット探偵がいたっけ。そこまで掘り下げてくれるなんて最高だね! いずれにせよ80年代のサウンドが求められているんだと思う。再録する場合は当時の機材を使うつもりだ。 ー音源をリリースする際には、どんなバンド名になりますか? フィリップ:分からないな、そこはおたくの力を借りないと。昔もバンド名については頭をひねったよ。自分たちは一卵性双生児だから、周りからよく「どっちがどっち?」って訊かれてたので、Who’s Whoってバンド名にした。プロモ素材とかもぜひ見てほしい。ヘアスタイルとか諸々最高だから。 クリストファー:ヘアスプレーのジャケ写とかいいかもね。 ー「Ulterior Motives」というバンド名でもいいと思いますよ。いろいろ案はあると思いますが。 クリストファー:多分ファンが考えてくれるんじゃないかな。がっかりさせることだけはしたくない。大勢の人たちが時間を割いて、(これだけの)熱意で関わってくれたんだから。自分たちも思い切って曲をリリースして、気に入ってもらえたら最高だ。俺たちは大満足だし、感謝の気持ちでいっぱいだ。 ー本当に特別な出来事ですよね、アートの力を物語っています――音源の一部を聴いて、「フルバージョンが聞けないなんておかしい。この曲は世に知られるべきだ、作曲した人も世に知られるべきだ」と言った人がいたわけですから。 フィリップ:それもたった17秒だよ。 クリストファー:自分たちもすごく楽しみだ。映画やTV番組ではかなり上手くやっていけてるし、個人的にも映画のサントラやアルバム制作をやっている。『SkyPolar』という昔のシンセサイザーを彷彿とさせるようなアルバムも作った。エマーソンとか、レイク&パーマーとか、ピンクフロイドとか、ハンス・ジマーにナイン・インチ・ネイルズを掛け合わせたような感じだ。だから(「Ulterior Motives」の再録を)絶対やらなきゃいけないわけじゃない。だけど、感謝の気持ちとしてやらなきゃいけない気がした。何年も時間をかけて突き止めてくれた人のためにもやるべきだ。
Rolling Stone Japan 編集部