音楽検索マニアを悩ませていた「17秒の曲」の正体が明らかに 米
あの曲のことは完全に忘れてたんだ
ーご気分はいかがですか? クリストファー:最高だよ! 今の状況にひたすら圧倒されて、驚いている。つい2日前までは全く知らなかったんだ。 フィリップ:2人ともびっくり仰天だった。正直、2021年からずっと続いていたなんて知らなかったよ。 ーどういう経緯で知ったんですか? クリストファー:10年ほどSyFyチャンネルで仕事をしてたことがあって、超常現象のドキュメンタリーとかSonyのホラー映画とかをやっていた(映画『エクソシスト』のヒントになった実際の事件をテーマにしたドキュメンタリー『The Exorcist File』など)。そのプロモーション映像を投稿していたら、「EKTをリリースして」「Ulterior Motives」というコメントが届き始めて、「何だそりゃ?」という感じだった。あの曲のことは完全に忘れてたんだ、40年も前だからね。そしたらすごいことになった。おたくの記事(失われた音源のフルバージョンを探すネット探偵の記事)のリンクが送られてきて、それで「なるほどね」と思い、それから曲を聴いて「確かに、自分たちだ」と。それで知ったんだ。 フィリップ:正直なところ、1人の人間としてすごく胸が熱くなった。これだけ大勢の若者がこの曲を口ずさみ、傑作だと言ってくれるのを見て、思わず涙が浮かんだよ。こんなに喜んでもらえて、ミュージシャンとしてはこの上ない喜びだ。自分たちの名前が明るみになって、電話は鳴りっぱなし、ソーシャルメディアも大変なことになってる。自分たちはそんなにTikTokを追いかけてないからね――娘からも「パパ、すごいわね。TikTok中で話題になってるわよ。みんなあの歌を歌ってる」というメッセージが来て、「おいおい、どうなってるんだ?」と思ったよ。 ーそれは驚きですね。これはお2人が音楽活動を始めたばかりのころの曲ですよね? クリストファー:2人とも結構有名なSweeny Toddというロックバンドに所属していたんだ。カナダ出身のバンドで、一番のヒット曲は「Roxy Roller」。オリジナルメンバーのニック・ギルダーに代わってブライアン・アダムスがボーカルで加入して、その後ブライアン・アダムスがクビになった。その後自分がボーカルに抜擢されて、フィルがギターを演奏した[編集部註:もう1人の兄弟ジョンはドラムを担当]。アメリカに進出して、(LAの)Rainbow BarとかWhiskey a Go Goで演奏するようになった。かなりヘビメタ色が強かったんで、モトリー・クルーも後押ししてくれた。 フィリップ:まさに80年代初期だよ。 クリストファー:「Ulterior Motives」は1986年ごろ、ポップソングとして収録した。それから金を稼ごうと――ミュージシャンだから、金を稼ぐためにはとにかく何でもやった。今のほうがもっと大変だけどね。映画の仕事をもらって、撮影美術部のアシスタントとして大作映画にいくつか関わった。そしたらアダルト映画をやってた友人が、美術関係や力仕事のスタッフを探してたんだ。 フィリップ:俺たちは20代前半だったかな。 クリストファー:プロデューサー陣とも知り合いで、すごくいい人だった。音楽を探してたのでBGM用にいくつか曲を渡したら、相当なギャラを払ってくれた。当然こっちもお金が必要だったからね。成り行きでそうなった。巷で言われてるのとは違って、あの曲はアダルト映画用に書いたわけじゃない。ポップソングとして作曲したのを、アダルト映画に転用しただけなんだ。 ーアダルト映画で使われていたとは思わなかった人も大勢いると思いますよ。今どきのアダルト映画はあそこまで手をかけませんから。 フィリップ:正直、当時あの業界は今とは全然違った。本当の映画を作るみたいに、ストーリー仕立てで、フィルムで撮影してたんだよ。 クリストファー:当時の値段で予算は1万~1万5000ドルぐらいかな。 フィリップ:今はビデオレコーダーやら携帯やらで事足りるけど、当時は一大産業だったんだ。自分たちも音楽使用料とか現場の仕事を学んだ。撮影の仕方も覚えて、すっかり夢中になって、しまいには映画製作をしてみたくなった。アダルト系じゃない映画をね。カメラとか照明とかを見るとすごくワクワクした。80年代、スモーキー・ロビンソンのプロデュースとかデヴィッド・バーンの「Stop Making Sense」を手がけたゲイリー・ゴーズマンにプロデュースしてもらったことがあってね。完成した曲を聴かせたら、気に入ってくれた。レーベル契約までこぎつけて、いくつか曲をリリースした。でも(「Ulterior Motives」といった)それ以外の曲は忘れ去られた。その流れで80年っぽい曲でアルバムも1枚出したよ。当時の音楽はとにかく陽気なのがすべてだった。ああいうメロディとか、無邪気さとかが満載だった。だから今どきの人が口ずさんで話題にしているのは本当にびっくりだよ。 ーこの曲を収録したのは40年前ですが、改めて聴いてみていかがでしたか? フィリップ:まずは開口一番、「どうしよう? みんな新しいバージョンを聴きたがってる、ノイズのないリマスターバージョンを聴きたがってる……」。 クリストファー:本当に目頭が熱くなったよ。最高だった。音楽は本当に感動ものだね。ずっと音楽人生だったし、今も映画音楽に携わっているから、音楽は自分の人生そのものだ。自分でも大きなスタジオとかPro Toolsとかを持ってるけど、映画用にドルビーサラウンドサウンドを作るのがメインで、いつもポップソングを作ってるわけじゃないけどね。当時はフィリップも僕もジョージ・マイケルやカルチャー・クラブのファンだった。それからナイン・インチ・ネイルズやピーター・ガブリエルに影響を受けた。(あの曲を)聴き直して、20代当時に戻った気分だったよ。 フィリップ:大勢の若者があの曲を歌って、わざわざ動画を撮影してるのを見て、どれだけ驚いたことか。時代を越えても大事にされるなんて、ミュージシャンとしてはこれ以上ない幸せだよ。それで決心したんだ、スタジオに入って、自分たちに今できることを考えてみようってね。 ーサンセット大通り沿いの往年のクラブで、ライブで聴けたら最高でしょうね。 フィリップ:Viper Roomはもうない? もう閉店した? ーいえいえ、今も健在です! ついこの間もヘビメタの演奏を見ました。今も賑わってますよ。 フィリップ:懐かしいな、Roxy Theatreでベイビーズを見に行ったっけ。自分たちが演奏する時はTroubadourだったな。 クリストファー:あの曲を書いた直後だ。当時はシンセブームにハマり出したころだった。あの頃はヘヴィーロックにのめり込んでいたっけ。あらゆるジャンルに手を染めたからね――カントリーは除いてだけど。音楽は最高の若さの源だと思う。