「熊出没注意」看板を無視して「山に入る」人たちの”強烈すぎる本音”…「みんな旬の天然もの好きだろ」
「山は決して裏切らない」
「俺は一般の会社では勤められなかったんだ。うちは代々炭焼きをやっていた。それが嫌で中学を出て一度は勤め人にはなったんだけれど、親族の借金を背負うことになってしまって金融屋から借金をすることになった。それが会社にバレてクビになった。 その後、何十社も受けたけれど全部落とされたんだ。言い訳はしたくないけれど、人生ってうまくいかないなって。結婚を決めていた女には逃げられるし、自殺まで考えたんだ。 でもさ、山は決して裏切らなかった。自分が努力すればするだけ報いをくれる。人に気を使う必要もない。大袈裟だけど、山のおかげで命拾いをしたんだよね。山にさえ入れば、人付き合いもしなくていいし、一年中何かしら金になるものがあるんだ。それは大昔から変わらないよ。 ただ、クマが増えてしまって山に入る人が減っただけだ。売る側よりも買う側が強いから、買取価格はほとんど変わらないけれど、それでも現金収入になるから俺だけでなく採る人が後を絶たないというわけ。 ここ数年、クマの数が異常に多いんだ。だから続けるべきか止めるべきか悩んだよ。俺は自分と介護が必要な親の生活のために山に入っている。生活保護はもらいたくないし、他所で働けないから危険でも山で稼ぐしか仕方がないんだ。 親がもらう年金だって、いろいろと引かれて生活できる金など残らないよ。楽しみというよりも生活費や医療費を稼ぐために山に入っているようなもんだ。 山には俺のようなものだけではないよ。年寄りも障害者も多いだろう。ここ10年近くクマが変わってしまって、趣味で採る人はだいぶんと少なくなったが、多くは生きてくための生活費を山で補っているんだよ。俺もそうだけど、仕事もないし馬鹿にされる連中など、普通に街で暮らせない連中も多いな」
「山に入らないと生きていけない」
「都会の人はクマのいる危険な山にわざわざ入るってどういうことだと考えるよな。それでケガしたり遭難をして、捜索をする警察や消防がかわいそうだと考えると思う。俺もそう思いますよ。 どうしてクマにやられることが分かっても入るのかなんて、想像できないよな。世の中には国民年金も満額もらえない人も多いんだよ。たとえ年金を満額もらっていても、家族の誰かが病気でもすれば少ない貯金などあっという間に底をつく。 最低限でも食べて生きていくためには、危険であっても山に入るしか仕方がないんだ。都会にいて高級な料亭で天然の山菜食べてる人には、そんな事情は分かんないよな」 私には男性の指摘した視点が完全に抜け落ちていた。人には生きる権利があり職業選択の自由もある。もし、私に特異な才能もなく収入もわずかだった場合、子供のために、親のためにお金がかかるとすれば、自分の身が危険に晒されようとも男性と同じく山に入る道を選んだであろう。 男性は傷だらけの太い指にタバコを挟み、うまそうに一服して再び山に入って行った。 つづく記事『なぜ「熊出没注意」看板を無視するのか…「山菜を採りに行く」人たちが明かした「切実な理由」』では、山人たちのリアルな実像にさらに迫ります。
野田 洋人