インフレ抑制には労働市場を冷ます必要-バーナンキ氏らが新たな論文
(ブルームバーグ): インフレ抑制の闘いに取り組む中央銀行は、「最後の1マイル」にあったとしても労働市場を冷ます必要がある一方で、失業率への影響は国ごとに異なるかもしれない。
米連邦準備制度理事会(FRB)議長を務めたベン・バーナンキ氏と国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストだったオリビエ・ブランシャール氏はピーターソン国際経済研究所と中銀10行との共同プロジェクトで、こうした分析結果を論文にまとめた。
バーナンキ、ブランシャール両氏は先に新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)期における米国のインフレ高進の原因に関する分析をまとめており、今回はその続編となる。
「大多数の国では、インフレ率を中銀目標に戻す最後の1マイルで、欠員失業比率の低下による労働市場の需給バランス改善が必要になる公算が大きい」と両氏は指摘。「労働市場の冷え込みで失業率がどの程度悪化するかは、賃金を用いたフィリップス曲線の傾斜と、ベバリッジ曲線(失業率と求人率との関係を示す曲線)の傾斜と位置に大いに左右される」と説明した。
その上でバーナンキ、ブランシャール両氏は、米国の失業率への影響は限定的となりそうだと分析。「ベバリッジ曲線がパンデミック前の位置に向けて下方シフトしていると見受けられる米国のような国々の場合、最後の1マイルの失業コストは限られる可能性がある」と論じた。
失業率とインフレ率との関係は活発に議論されており、失業率が数十年ぶりの低水準近くにとどまる一方でインフレ率が2022年に記録した急ペースから減速した米国の場合、特に顕著だ。
ブランシャール氏とサマーズ元米財務長官、ハーバード大学の調査ファローだったアレックス・ドマッシュ氏はベバリッジ曲線に関する22年7月の論文で、インフレ鈍化には失業率の大幅悪化が必要になると主張。これに対し、他のエコノミストから反論が示された経緯がある。
バーナンキ、ブランシャール両氏は最新の論文で、インフレ高進で労働市場の逼迫(ひっぱく)が果たした役割は限定的であっても、賃金要求は引き続き当局者が検討すべき重要な要素の一つであるとの見解を示唆した。