来年早々導入「仮装身分捜査」の実効性は? 闇バイトに “雇われたふり作戦”捜査員の安全担保など課題も…
捜査員が偽の身分証で「闇バイト」に応募し、強盗の実行役検挙や事件の発生抑止を狙う『仮想身分捜査』が来年早々、導入される運びとなった。仮装身分捜査に関しては、米国やドイツなど一部の国で制度化されていることなどから2010年~2012年にかけ、警察庁が研究会で議論してきたが、法的な観点からこれまで導入に踏み込めずにいた。
導入が見送られていた背景
社会部記者が導入の経緯について説明する。 「これまでも導入が議論されていた仮装身分捜査ですが、捜査のために偽りの免許証などを作成した場合、公文書偽造罪などにあたるために見送られて来ました。 ですが、昨今、首都圏を中心にSNSなどを通じた『闇バイト』が絡んだ強盗が多発。そのような状況を鑑み、刑法35条の『法令または正当な業務による行為は、罰しない』との規定を適用することで、仮装身分捜査の実施も可能だとの判断がされました」 闇バイトは実行役募集時に逃げられないようにするため、身分証明証の提示を求めている。そのため、捜査員が募集時に架空の身分証明書を提示し、リクルーターや他の実行役と接触。そうすることで犯行グループの上位被疑者の情報を得る算段だ。
おとり捜査との違い
この仮装身分捜査と似た捜査手法として、「おとり捜査」がある。犯行グループに捜査員であることを隠して接触するまでは同じだが、前者が上位被疑者との接触までを目的とする一方、後者では犯行グループに犯罪を働きかけ、行われた段階で摘発するところまで踏み込む点で異なる。 おとり捜査にも違法の可能性があるが、刑訴法197条1項に基づく任意捜査として、直接の被害者がいない薬物や銃器取引に限定し、許容されている。
実効性を疑問視する声も
いずれにせよ、法令上のリスクも多分にはらむ捜査手法だけに、導入には慎重さが求められるが、その実効性に対して疑問視する声も上がっているという。 「リクルーターは闇バイトに応募した実行役とはシグナルやテレグラムなどの秘匿性の高いアプリでやり取りを行うため、仮装身分捜査を導入したとしても指示役までたどり着く可能性は低いと思われます。それに、実際に犯行準備現場で捜査員が他の実行役らと接触した場合の危険性を指摘する声もあります」(同前) 実際、シグナルやテレグラムについては専門家も「ダイレクトにユーザー間で通信でき、データも暗号化されるので証拠は残りづらい」とし、指示役にたどり着くのは難しいとしている。 また、闇バイトでは犯行グループの暴力による支配も指摘されており、捜査員の身の安全担保も重要な課題といえる。