旭化成の素材/化学の無形資産戦略、技術やノウハウのマネタイズ手法とは?
イオン交換膜法食塩電解事業のソリューション型事業
電解関連事業のソリューション型事業としてイオン交換膜法食塩電解事業の事例が紹介された。イオン交換膜法食塩電解事業ではイオン交換膜を使用して食塩水を電気分解し、塩素、水素、苛性ソーダを生産する事業を対象に、電解槽、膜、電極、セル、モニタリング機能など全ての要素技術を提供している。「業界で唯一全ての要素技術を提供している」(久世氏)。同社の電解槽は世界30カ国/160工場以上で採用されている。同社は電解プロセス向けモニタリング装置/システムの開発と販売を手掛けるRecherche 2000(カナダケベック州)を2020年に買収している。 イオン交換膜法食塩電解事業の無形資産は「製品技術」「オペレーションノウハウ」「顧客基盤」となる。「製品技術」では幅広い製品の技術を持っており、顧客がイオン交換膜法により塩素、水素、苛性ソーダを生産する際に生じる課題に対応できる。 「オペレーションノウハウ」では、グローバルで複数の拠点に営業とテクニカルサービスの担当を配置し、顧客をサポートできる体制を確保。トラブル発生時はオペレーションノウハウと製品技術を基盤に、原因の特定から対処まで行える。 「顧客基盤」は50年にわたる顧客サポートで培った知識と経験や、課題解決力がある人財とチーム力となる。 今後はモニタリングから最適運転サポートまでのデータドリブンサービスを展開するとともに、デザイン思考とアジャイル開発を組み合わせ新しいサービスを生み出す。 併せて、イオン交換膜法食塩電解事業の展開により長年にわたり蓄積してきた顧客基盤、技術、サービスプラットフォームをアルカリ水電解水製造のビジネスにも展開。水素関連事業で多様なパートナーとの協業も実現する。これらの取り組みにより、2030年ごろに水素事業の売上高を約1000億円とし、グローバル展開を目指す。
マテリアル領域のライセンス型事業
マテリアル領域におけるライセンス型事業の事例としてテクノロジーバリュー事業開発(TBC)で進める「リチウムイオンキャパシター技術」と「超イオン伝導性リチウムイオン電池電解液技術」の収益化が紹介された。 TBCとは、旭化成が蓄積した膨大な技術から成る無形資産であるパテント、ノウハウ、データ、アルゴリズムなどを価値化し、ライセンスに限定しないさまざまな形態で提供して、高速でアセットライトな収益化を目指すモデルだ。 具体的には、同社のパテント、ノウハウ、データ、アルゴリズムを用いて、共創により価値設計を行い収益を得るとともに、これらで作成された材料や技術の利用権供与、サービス化、所有権移転で収益を獲得する。久世氏は「当社ではTBCの利益目標として2035年年度に300億円を掲げている」とコメントした。 リチウムイオンキャパシター技術の収益化では、従来のリチウムイオンキャパシターと比べ容量を1.3倍向上したリチウムイオンキャパシターを製造できるリチウムプレドープの技術をはじめとするコア技術に関する特許と技術ノウハウをライセンスパッケージ化。このライセンスパッケージを電池/機器メーカーへ提供し、リチウムイオンキャパシターの製造コスト削減や開発期間の短縮を後押しする。リチウムプレドープや電極製造の技術についてはDX基盤で顧客と事業共創を行っている。このリチウムイオンキャパシターの用途としては、バックアップ電源や産業機械、公共機器(太陽光発電システムなど)での利用を想定している。 超イオン伝導性リチウムイオン電池電解液技術の収益化では、旭化成の蓄電/材料技術(電解液組成設計技術、界面制御技術)を生かし、既存電解液と比べて高いイオン伝導性を有する電解液を開発。この電解液を用いて、電池メーカーとリチウムイオン電池の共創を行っており、既にPoC(概念実証)に成功している。 今後は、従来品と比較して高容量で広い温度範囲で作動し小型で低コストなこのリチウムイオン電池をリチウムイオン電池メーカーへ提供する。同電池の用途としては電気自動車(EV)を想定している。このリチウムイオン電池をEVに搭載することで、走行距離の延長や寒冷地での長距離走行、高温環境での長寿化を実現できるとみている。 なお、同社は既にCO2を原料として消費する生産プロセスの技術やノウハウをライセンス化し、国内外の化学メーカーに提供しており、採用実績も有している。具体的には、リチウムイオン電池の電解液用原料の生産技術と、CO2利用プロセス技術や超精密精製技術を組み合わせたポリカーボネートの生産技術に関して、工場の建設から完成後の安定運転までの技術やノウハウをライセンス化し、国内外の化学メーカーへ提供している。 リチウムイオン電池の電解液用原料の生産技術が適用された工場では1年間当たりCO2を11万トン(t)消費したケースもある他、ポリカーボネートの生産技術が適用された工場では1年間当たりCO2を20万t消費した事例もある。
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