<万里一空・彦根総合23センバツ>/1 悔しい夏の初戦敗退 春4強でシード「てんぐだった」 /滋賀
2022年7月18日、第104回全国高校野球選手権滋賀大会の1回戦。彦根総合は伊香との初戦に臨んだ。08年の創部以来、県大会16強が最高だった同校は春の県大会で初の4強入り。シード校となり春夏通じて初めての甲子園出場に幸先のいいスタートにしたい一戦だったが、試合は思いとは裏腹に進む。 序盤に先行されるが五回に連続適時打で逆転。ところが六回から守備が乱れすぐに追い付かれる。七回も失策からピンチを招き相手に勝ち越しを許した。この回から登板した勝田新一朗投手(2年)は「相手の3年生の圧がすごい、気持ちで負けるかもしれない」と気迫の差を振り返る。 何とか反撃に転じようとするが、「相手の術中にはまり、変化球を打ったり、遠くに飛ばそうと大振りしたりしてコンパクトな打撃ができなかった」(田代奏仁選手=2年)と気持ちだけが空回りした。誰も話さなくなったベンチには重苦しい雰囲気が流れる。1、2年生中心のチームに試合の流れを変える力は残っていなかった。 まさかの初戦敗退。「シード校になり、てんぐになっていた」と選手たちは痛感した。試合後、うなだれる選手たちに宮崎裕也監督(61)は「油断したから負けた。3年生の思いを背負って出ていることを分かっているのか」と厳しい言葉を掛けた。武元駿希投手(2年)は「自分たちのせいで終わらせてしまって申し訳ない。プレーで恩返しがしたかった」と悔しい思いをかみしめた。 悔しがる下級生の姿を見ながら宮崎監督は「この子たちは初めて悔しさを知った」と確信した。下級生が多いチームは夏までの公式戦ではどこかに「年上相手だから負けても仕方がない」という甘えがあった。「ここから成長できるはずだ」 新チーム結成時のミーティングで宮崎監督は選手たちに「口惜(くや)しさを忘れぬ者が次の勝者になる」と書かれた紙を渡し、「最後の年だからもっと必死にやれ」と激励した。田代選手は「言われた通りだ。春の準決勝で負けた悔しさをすぐに忘れていた」と気付いた。森田櫂選手(同)は「悔しい、情けない。気持ちを入れ直そう」と心に誓った。 選手たちの長い夏が始まった。 × × 3月18日に開幕する「第95回記念選抜高校野球大会」(毎日新聞社、日本高野連主催)に初出場する彦根総合。昨秋の県大会で初優勝し、近畿大会でも8強に食い込んだチームの夢舞台への道のりは決して平たんではなかった。そんな中、宮崎監督は選手たちに「万里一空(ばんりいっくう)」という言葉を投げかけ続けた。宮本武蔵の言葉で、谷底から見ても、平地から見ても山の上から見ても同じ一つの空だということから、一つの目標に向かって努力するという意味で使われる。「甲子園での全国制覇という目標に向かって自分たちは努力し続けるしかない」。20年の宮崎監督着任から部の改革を進め、3年で悲願の甲子園初出場を勝ち取った同校野球部の道のりをたどる。【飯塚りりん】(題字は彦根総合書道部)