【ついに改正】国の虐待対応マニュアルから「揺さぶり」診断基準を削除 「セカンドオピニオン推奨」で改善するのか 脳の専門医は「国の“責任放棄”だ」
■4年を経てマニュアル改正…SBSの診断基準を削除
厚生労働省は、2020年以降も児童相談所のSBSへの対応状況の調査を行うも、診断基準見直しの議論は避け続けた。しかし去年になって眼科、小児科、脳神経外科、法医学、放射線科、児童相談所の関係者を集めて非公開の意見交換会を2回(去年12月、今年3月)にわたって実施。 その結果を踏まえて、3月29日にこども家庭庁はマニュアル改正に踏み切った。
長男が生後7カ月の時につかまり立ちから転倒した事故でSBSを疑われ、1年以上の親子分離を経験した菅家英昭さん(SBS/AHTを考える家族の会代表)は、「診断基準を削除しているが、とにかく親の虐待を疑うべきという”保護ありき”の内容は変わっていない。誤認保護を防ぐための見直しもなく、私たちと同じような被害が減っていくのか疑問です」と肩を落としている。
■代わってセカンドオピニオン推奨…効果は?
今回の改正では、「虐待による頭部外傷」が疑われる事案では、複数の診療科の医師にセカンドオピニオンを依頼することを促す記載が追加された。しかし、セカンドオピニオンを推奨することにどれだけの効果があるのだろうか。
今回のマニュアル改正について、SBS検証プロジェクトの笹倉香奈共同代表は「遅きに失した感はあるが、硬膜下血腫などがあれば虐待と決めつける従来の基準を削除したことは評価できる。ただ、従来のSBS診断基準で診断している医師もいまだに多く、セカンドオピニオンを推奨するだけでは誤診が生まれる構造は変わらないのではないか」と話す。
■国が連携する学会の一つは、従来のSBS診断基準を現在も”公認”
こども家庭庁は、児童相談所がセカンドオピニオンの協力医を紹介してもらうことができる学会として、6つの学会と連携。その中の一つに、日本子ども虐待医学会がある。 日本子ども虐待医学会が「学会公認マニュアル」としているのが、2011年に作成された「子ども虐待対応・医学診断ガイド」だ。
この診断ガイドでは、乳幼児の硬膜下血腫のうち約5%が不慮の事故(すなわち、95%は虐待ということになる)とする記載や、3徴候があれば3メートル以上からの落下事故などがない限りSBSである可能性が極めて高いとする記載がある。 厚労省によれば、国のマニュアルはこの診断ガイドが主たる医学的根拠だという。この診断ガイドを今も「公認マニュアル」と標榜し続けている学会にセカンドオピニオン医の紹介を求めた場合、従来と同じ診断が下されることは変わらないのではないか。 日本子ども虐待医学会に問い合わせると、メールで回答があった。 【質問】 「貴学会として(診断ガイドの)記載は現時点においても正しいとお考えでしょうか?今も見直しの必要はないとお考えでしょうか?」 【日本子ども虐待医学会の回答】 「過去の厚生労働科学研究の成果物ですので、当学会が勝手に修正することはありませんし、コメントできません」 【質問】 「貴学会が児童相談所に紹介した医師は、貴学会公認マニュアルである診断ガイドの記載に医学的根拠があることを前提に鑑定、診断意見を行なっているものと思料しますが、このような理解でよろしいでしょうか?」 【日本子ども虐待医学会の回答】 「当学会として、鑑定医に対して、鑑定内容に関しての指導は行なっておりません。よって、鑑定に際して当学会公認マニュアルを活用するかどうかは鑑定医自身の判断になります」 【質問】 「貴学会として手引き(=国の虐待対応マニュアル)の記載等は現時点においても正しいものとお考えでしょうか?」 【日本子ども虐待医学会の回答】 「こども家庭庁が判断すべきことであり、当学会が取材にコメントできません」 しかし、こども家庭庁は、今回の改正ではマニュアル記載の正否については一切触れることなく、医学的記載を削除した。従来のSBS診断基準に根拠があったのか、その検証は宙に浮いたままだ。