「老年病は治せるものばかりではない」90歳現役医師がパーキンソン病患者に毎回伝えた言葉とは
90歳を迎えた今も現役医師として週4日高齢者施設で働いている折茂肇医師。50年以上にわたり高齢者を診療してきた折茂医師は、患者さんによく「病気と仲良く暮らしましょう」と伝えてきたという。 【動画】90歳現役の折茂肇医師の回診の様子とインタビューはこちら 折茂医師は、東京大学医学部老年病学教室の元教授で、日本老年医学会理事長を務めていた老年医学の第一人者。自立した高齢者として日々を生き生きと過ごすための一助になればと、自身の経験を交えながら快く老いる方法を紹介した著書『90歳現役医師が実践する ほったらかし快老術』(朝日新書)を発刊した。同書から一部抜粋してお届けする(第4回)。 * * * 私は高齢者の診療をする際、昔からよく「病気と仲良く暮らしましょう」と患者さんに伝えてきた。 東大や東京都健康長寿医療センターでは外来を持っていたので、患者さんはみな「病気を治してほしい」とやってくるわけである。しかし、老年病は治せるものばかりではない。 30年近くにわたって担当したパーキンソン病の女性患者さんがいた。パーキンソン病は、神経難病の一つで、脳の特定の領域がゆっくりと変性する。手足が震えたり、筋肉がこわばったり、動作が遅くなったりする症状が出る。進行を抑えたり、症状を軽減したりする治療はできても根治することはできない病気だ。 その女性は60歳くらいのときから私のところで受診し始め、数年後にご主人と死に別れ、その後はずっと一人暮らしをされていた。 私は「この病気は治るものではないので、病気と仲良く暮らしていきましょう」と伝えるのだが、患者さんとしてはやはり納得できるものではない。病気を治すのが医師の仕事だと思っているし、病気とともに生きていく覚悟を容易に持つことができるものではない。 しかし、私はその患者さんが外来を訪れるたびに「病気と仲良く暮らしましょう」と繰り返し、結局患者さんが90歳くらいになるまで、そうしたやりとりが続いたのである。 納得したわけではなかったと思うが、その都度、いろいろな悩みごとをぶちまけ、「先生の顔を見ると安心するのですよ」と言って帰っていった。