考察『錦糸町パラダイス』8話。293歳の男が登場!?なぜか心地よい急なSF展開
ここにきていきなり、まっさん(星田英利)が江戸時代から生きていることが判明する!?ドラマ24『錦糸町パラダイス~渋谷から一本』(テレ東金曜深夜24時12分~)8話を、ドラマを愛するライター・釣木文恵と、イラストレーターのオカヤイヅミが振り返ります。
突然のSF展開が「錦糸町」にもたらすもの
驚いているうちに気づいたら30分経っていた8話。7話は時代を超えた2つのいじめ問題が描かれたかなり濃度の高い回だったが、今回はその反動かのように、「何があったか」をなかなか説明しがたい30分だ。 錦糸町を見守り続けてきたまっさん(星田英利)が実は293歳だった! 7話でほんのり予告されていたとはいえ、ここまで作品を観てきた者にとってはあまりにも急なSF展開。何気なく観ていたら違うドラマが始まったのかと思ってしまうような江戸時代のシーン。毎回、アフロの歌声とともに錦糸町の街角が映し出されていたタイトルバックも、今回はモノクロの映像=江戸時代の錦糸町だ。 当たり前のようにしれっと出る「杉田玄白」のテロップにはおかしみがあるし、日々が積み重なって結局死なないシーンにも笑ってしまった。しかも、まっさんの母が松金よね子、杉田玄白役に六平直政、250年の寿命を与えてくれた「寿命の男」は波岡一喜と、この回想シーンにしか出てこないのに、なんとも豪華なキャスティング! 毎週真剣に観ていたドラマが突然こんな方向転換をしたら、普通は突き放されるような気持ちになるものだ。けれど、8話を観たあとはなぜか心地よかった。これまでのこの作品からは、演技がリアルであること、錦糸町の人びとを覗き見るドキュメンタリーのような手ざわりがあったこともあって、どうしようもない閉塞感や行き場のない人びとの停滞感が伝わってきた。「星降る錦糸町」のパーソナリティ2人(濱田マリ、光石研)の存在はコミカルだけれども、ある意味でこの街に住む突飛な人としてのリアリティをまとっているとも言える。そんな中に放り込まれたまっさんの293歳設定は、この作品にパーンと明るい光をもたらしてくれた。 作品を勝手にカテゴライズしてしまう自分の無意識のうちの偏見と、フィクションの強さを感じた8話だった。