玉木雄一郎氏の不倫報道に対するネットの反応“擁護するわけではないが猛烈な批判もしない” かつての「ゲス不倫」の猛バッシングから変わった空気感
「1331人の女性と関係を持った」昭和の銀幕スター
今回、玉木氏の不倫報道に対してネットでは、“擁護するわけではないが猛烈な批判もしない”というスタンスが目立ちました。たとえば、作家の室井佑月さんはXにこう書きました。 〈不倫。謝れ、謝り方が足りないと、大騒ぎする人が出てくるかもだけど、基本、当事者たちだけの話だと思う。他人の下半身事情に、みんな興味もちすぎよ。〉 漫画家の倉田真由美さんはこう書きました。 〈政治家の不倫スキャンダルが話題だが、利権絡みの金銭問題などとは違い完全にプライベートのアホ行為でしかないので、そういうのは周囲の人間がとやかくいうのではなく家庭で痛い目にあえばよい、としか思わない。〉 多かったのは、「結局、不倫なんてものは、その家庭内の問題であり、当事者以外には関係ない。そもそも、報道すべきことなの?」といった意見ですね。完全にかつての揺り戻しが来ており、10年近く続いた不倫報道への熱狂とバッシング癖から抜け出したような感さえあります。 これはすべて「空気が変わった」ということに行き着くのではないでしょうか。実際問題として、誘惑に負けて不倫してしまった一般人は少なくないだろうし、それによって人生棒に振った人もいるでしょう。企業や役所の人事部の人と話をすると、「人事も2人の社員が社内不倫をしていることを把握していて、いかにして同じ部署にしないか、などを考えなくてはいけません……」なんて嘆かれたこともあります。結局、著名人の不倫を叩いていながら“明日は我が身”と怯えている人はいるんです。 一方で今の日本経済の状況に目をやると、庶民は物価高に苦しみ、賃金もなかなか上がらない。政治家にはなんとかこの局面を打開する政策を打って欲しい。だから、玉木氏に対しても、「とにかく国民のために働いてください。今の日本は不倫のことで停滞させるわけにはいかない状況にあります」的な意見が出るなど、他人をバッシングするよりは、世の中をよくする可能性のある人を許す、という流れになっているのかな、と思いました。 そもそも不倫をめぐる「空気感」というものは不倫に対する大衆の思いが作るもので、昭和の銀幕スターはむしろ女性関係を誇示する面があった。かつて「エースのジョー」こと宍戸錠は、日本外国特派員協会での講演で堂々と、「1331人の女性と関係を持った」と明かしましたが、これなんかはその象徴でしょう。勝新太郎も豪快な愛人エピソードに事欠きませんね。 これは、妻がいながらやりたい放題だった銀幕スターたちを、当時のメディアや社会が容認していただけです。そう考えると今は、政党代表の不倫がなんとなく許される状況になっているわけで、“「鬼畜度合い」「非常識度合い」が許容範囲であれば、あとは家族で解決してください”という空気感は今後も強まっていくのかもしれませんね。 【プロフィール】 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。