「太賀が演じてくれて信頼感がありました」池松壮亮さん、直談判までして実現した主演作“本心”を語る
人工知能(AI)が急成長した近未来の日本を舞台に、惑いながらそれぞれの心を見つめる人々を描く映画「本心」が公開されました。主演は池松壮亮さん(34)=福岡市出身。本紙朝刊で連載された平野啓一郎さんの同名小説に感銘を受け、直談判までして映画化を実現した思いとは。 【写真】NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」で共演する池松壮亮さんと仲野太賀さん -2019年9月から20年7月に連載された原作を読んだきっかけは。 ★池松 初めて読んだのは20年の夏でした。新型コロナウイルスの流行で人に会うことすらできない状況でしたよね。映画が「不要不急」と言われて、信じていた価値観が崩壊してしまった。僕自身、不安で暗闇の中にいました。そんな時、仕事で上海に行ったんです。2週間の隔離生活を送る中で、ふと、これまでに「ある男」など印象深い作品を残した平野さんは、今どんな物語を書いているのだろうと調べて「本心」を知りました。まだ本になっていなくて、新聞連載をインターネットでさかのぼって読みました。 -読んでどう感じましたか。 ★池松 まず、自分が今どこにいるのか、本当に世界が動いているのか分からないような状況で出合ったことが大きなインパクトでした。コロナのことは直接は書かれていませんが「アフターコロナ」のことが詰まっているように感じました。自分だけでなく、私たち全体の物語になり得るんじゃないかと。 -それで映画化を考えた。 ★池松 映画にしたい、するべきじゃないかと思いました。「アジアの天使」「ぼくたちの家族」などの作品で一緒に仕事をしてきた石井裕也監督に話したら賛同してくれて、平野さんにも直接お願いをしに行きました。 -演じた主人公である青年・朔也は、先端のAI技術で亡き母をよみがえらせ、彼女の本心を知りたいと願います。仮想現実の「母」と対話するシーンは、難しくはなかったですか。 ★池松 案外そうでもなかったです。例えば、この世界からいなくなってしまった大好きだったおじいちゃんにもう一度会いたいと思った時、何度も脳内で会っているんですよね。誰でも体験することじゃないでしょうか。シチュエーションは複雑ではありますが、何か懇願する気持ちは、実は難しくはなかったです。 -朔也に興味を抱き、物語の重要な鍵を握る「イフィー」を仲野太賀さんが演じました。 ★池松 石井監督も含めて3人で前から仲が良いので、太賀が演じてくれて信頼感がありました。撮影日数は短かったと思いますが見事に表現してくれました。 -AIの進化は止まりません。悪用の懸念もあります。 ★池松 専門家ではないので分かりませんが、まだ良い方向に向かえる、議論の余地がある地点だと思っています。だからこそ、この映画を「どう思いますか」と言えます。原作も映画も時代への危機感や怒りを起点にしていますが、「これからの時代怖いですよね」と言いっぱなしにする気はないです。進むべき道について、対話のきっかけになったらうれしいです。 -真田広之さんが主演とプロデュースを手がけた配信ドラマ「SHOGUN 将軍」が、米エミー賞18冠に輝きました。ハリウッド映画「ラストサムライ」(03年)で共演しています。 ★池松 初めての映画で何も分かりませんでしたが、一番言葉をかけてくれたのが真田さんでした。毎日現場に来て、日本文化がアメリカと融合したときの違和感をすべて取り除こうとしていました。多分、「SHOGUN」と変わらないことをしていたんだと思います。20年かかることに挑戦した結果がエミー賞という快挙で、すさまじく感動しています。 -これからどのような仕事をしたいですか。 ★池松 世界では戦争をはじめとして信じられないことが同じ空の下で起こっています。映画のリアリティーなんて大したことがないくらい、現実がフィクションを超えてきている。その中で、いかに物語が、映画が世界に良い役割を果たせるのか、考えていきたいと思っています。 (文・諏訪部真、写真・柿森英典)