現代自動車、300万円台EVを日本市場へ 「輸入車の墓場」攻略目指す
リベンジから2年半。かつては一度撤退を余儀なくされた韓国・現代自動車が日本市場で巻き返しを図る。 【関連画像】輸入車におけるEVの割り合いは増えている。外車の販売台数とEVの比率 2024年11月、現代自動車の日本法人は横浜で戦略説明会を開いた。25年春までに小型の電気自動車(EV)「インスター」を国内で販売すると発表した。 今夏、釜山モビリティーショーにて世界初公開となった同車は、軽自動車とほぼ変わらないサイズながら、航続距離はおよそ350kmと、日産自動車のEV軽自動車「サクラ」や三菱自動車の「ミニキャブEV」を上回る。新車価格は300万円台にとどまる見込みだ。価格面で敬遠され、低迷が続いている国内のEV市場に風穴をあける狙いがある。 ●鬼門の日本市場 現代自動車にとって、日本はまさに鬼門というべき市場だ。同社が初めて日本市場に参入したのは01年。共催となるサッカー日韓ワールドカップを翌年に控える中、良好な日韓関係も後押しした。 一方、初進出した日本市場では辛酸をなめる結果となった。当時はセダンを中心としたモデルを展開したが、日本車メーカーの牙城を崩すことができず、9年間の販売台数は1万5000台にとどまった。 販売不振を理由に09年に撤退した。「最初に投入した車種が日本に適しておらず、挽回するためにその後、さまざまな車種を投入したが、うまくいかなかった」と現代自動車の張在勲社長兼最高経営責任者(CEO)は当時を振り返っている 撤退から12年後、同社は日本への再進出に乗り出した。EVの「アイオニック5」と燃料電池自動車(FCV)の「ネッソ」の2車種で販売を開始。これまでSUV(多目的スポーツ車)型EV「KONA(コナ)」と、今回新たに発表したEV「インスター」の合計4車種を発表した。多様なラインアップを展開した前回とは異なり、EVやFCVに的を絞った形だ。
ターゲットは停滞するEV市場
背景には、日本のEV市場に対する現代自の成長期待がある。21年、日本政府は35年までに新車販売における電動車(EVやFCVなどを含む)の比率を100%にするという目標を掲げた。ただ、日本自動車販売協会連合会によると、同年の国内のEV販売台数は2万1000台と乗用車全体の1%にも満たなかった。現代自としては、EVの普及が遅れる日本で早期にモデルを投入し、EV車としてのブランドを確立したい思惑がある。 張社長は24年10月、日経ビジネスの取材に対し、「日本におけるこれからのEVの動きをみると、消費者の関心の高まりや政府目標なども含め、大きな伸びしろがある」と期待する。確かに、国内販売においてはEV比率は2%台を推移しているものの、輸入車におけるEVの割合はここ数年での伸びが顕著だ。 ●販売はオンラインで完結 日本では、販売方法にも工夫する。従来のように全国にディーラーを設けず、契約から納車までをオンラインで完結させる。販売強化に向けて、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と協業を発表。膨大な顧客データを活用し、マーケティングにつなげる。 また、カーシェアリングサービス「Anyca(エニカ)」とも提携するなど、若年層を中心とした新商品を積極的に取り込むアーリーアダプターに対してブランドを訴求してきた。「グローバルでの現代自の認知が高まるにつれて、日本でも少しずつ認められ始めている」と張社長も手ごたえを感じている。 EVへの絞り込みやオンライン販売など、大胆な手法で再参入した現代自だが、販売成績にはいまだ結びついていないようだ。24年1月~10月の販売台数は526台と、中国EV大手として、市場拡大を狙う比亜迪(BYD)の3分の1ほどにとどまる。 低調が続く理由はどこにあるのか。「現代自のオリジナリティが認知されないと車は売れない」とみずほ銀行ビジネスソリューション部 上席主任研究員の湯進氏は指摘する。 消費者全体のEV認知度はまだ低いなか、EVを新たに購入する際に、航続距離などの性能面がクルマ選びの最重要基準になっているとは考えにくい。なぜ日本車メーカーではなく現代自でなくてはならないのかを訴求しきれていない状況だ。 例えば、同時期に進出したライバルのBYDはディーラーと契約し、実店舗販売を徹底する。またテレビCMに有名女優を起用するなど、中国車への認知度や好感度の向上を図ってきた。湯氏は「台数を追い求めるのであれば、オンラインのみでの販売では相当ハードルが高い」と話す。 ●2029年まで10倍の販売台数目指す 販売戦略会では、現代自の日本法人でマネージングディレクターを務める七五三木敏幸氏は、29年までに年間販売台数を現状の10倍に伸ばすと意気込んだ。その中で「インスターがある程度の台数を占めることは間違いない」と期待する。 韓国メディアでは、日本市場をよく「輸入車の墓場」と表現する。国内自動車メーカーが圧倒的なシェアを握る日本では、輸入車が市場に食い込むのは不可能という意味合いだ。小型EV、インスター投入によって日本市場での巻き返しを図りたい現代自だが、ブランドはいまだに浸透していない。まずは消費者の「現代自動車ありかも」を実現するため、PR戦略の充実が不可欠である。
玄 基正