なぜ侍Jは韓国監督が「敗因について何も言うことはない」と認めるリベンジでプレミア12初優勝を果たせたのか?
非情とも取れる選手起用もした。山田、坂本(巨人)をスタメンから外し、丸(巨人)にはバントも命じた。だが、選手が腐らぬ空気を意識して作った。 ラグビーで流行った「ワンチーム」の精神である。 「スタメンを毎日、毎日変えてきたが、ベンチスタートの選手には、とくに声をかけるようにした。“あとを頼むぞ”と。選手たちも、それを理解してくれて、常にいつでもいける準備をしてくれた。我々が1試合を戦えるものを作っていけた」 「ワンチーム」の気持ちはピッチャー陣も同じだった。 高橋礼は「4、5回は行くつもりでいった」という。 鉄壁の守備にも助けられた。3回先頭のキム・ハソンを塁に出すが、続くキム・ジェファンのレフトの右を襲うライナー性の飛球で、なんと一塁走者はタッチアップで二塁を狙ったのだ。だが、近藤(日ハム)は冷静にすぐさまダイレクトでセカンドへ。送球は難しいハーフバウンドになったが、名手、菊池がこれをグラブに収めてキム・ハソンにタッチした。レーザービームとスーパーキャッチの連携での併殺。ピンチが一瞬にして二死となったのである。 4回からは田口(巨人)が2イニングを投げた。「誰かが2イニングいかねばならなかった。田口が頑張ってくれた」とは、建山投手コーチ。山口のまさかの降板でシナリオが狂った。だが、田口もまた「準備はできていた」という。田口を助けたのも守備力だった。 5回も先頭打者のキム・サンスを三塁線への内野安打で出塁させた。一死一塁からキム・ハソンのカウントが3-2となってキム・サンスはスタートを切った。だが、キム・ハソンはスイングアウト、間に合わないと思った走者は、二塁手前で止まったのだ。會澤が菊池に送球すると、メジャー移籍を狙う名手は、瞬時に一塁へ転送。絶妙のランダウンプレーで閉じ込めたのである。ピンチがまた併殺になってチェンジに変わる。 6回を中川(巨人)がつなぐと7回からは勝利の方程式に入った。 甲斐野(ソフトバンク)、山本(オリックス)、山崎がたった一人の走者も許さぬパーフェクトリレー。 3人をリードした會澤も「頼もしいピッチャー陣。僕も助けられた。感謝の気持ちでいっぱい。内心ドキドキだったが、この人たちなら大丈夫だと信頼していた」と、絶賛した。 7回裏、足を上げるのが代名詞のステップを擦り足に変えて二塁打を放った坂本を国際大会における右打ちの極意を会得した浅村(楽天)が二死から還して貴重な追加点を奪ったことも追記しなければならない。 なぜ日本は世界一を奪えたのか? 稲葉監督は、沖縄で行われたカナダとの大会直前の強化試合、5-6で敗れた初戦が引き金になったという。 「負けてしまったが1点差まで詰め寄った。我々はこういう野球をやっていくんだというものが敗戦の中で見えた。負けたが、1点をとりにいく大事さを選手にわかってもらうきっかけとなる試合だった」 先発の山口が2回に6失点したが、コツコツと得点を積み上げて、ついに9回に1点差に詰め寄り1本出れば同点という場面まで作った。 その野球をぶれずに貫き、オープニングラウンド、スーパーラウンドと苦しい試合を勝ち抜いてきた。 「粘り強く1点ずつ返していくという野球。四球を選んだり、慣れない送りバントもやってもらった。長打はなかなか出ない。だからコツコツ取っていく。そしてピッチャーが頑張ってくれた」 緻密な野球で1点を重ね、そして、その1点を世界に誇る投手陣が守り抜く野球ーー。 抜群のリードで投手陣の力を引き出した會澤は、「韓国は強い振りのいいバッターが揃っていた。早めに特徴をつかみ、こちらの投手によって違うが、カウントが不利なときにどうするかを一番に考えた。このピッチャーならファウルをどのボールでどこで取れるかを一番に考えた。それにしても難しかった」と振り返った。