ロランDG争奪戦が問う特別委の役割、買う側か買われる側か
(ブルームバーグ): ローランドDGを巡るブラザー工業とタイヨウ・パシフィック・パートナーズの争奪戦で、ロランDGの特別委員会が果たす役割に疑問が投げ掛けられている。タイヨウが株式公開買い付け(TOB)価格を引き上げた直後、同取締役会の意見表明が「応募推奨」に変わったことで、特別委が適切に責務を果たしているのかが問われている。
タイヨウはMBO(経営者が参加する買収)を目指してTOBを実施しているが、4月26日、ブラザー工の提案する1株5200円を上回る5370円へと買取価格を引き上げた。その前の取締役会の意見は「中立」だった。
企業のガバナンス問題に詳しい東京霞ヶ関法律事務所の遠藤元一弁護士は「タイヨウが当初のTOB価格から引き上げたことについて、特別委は見解を出すべきだ」と指摘する。特別委は、タイヨウが引き上げた価格について答申で「少数株主に対して適切なプレミアムを付した価格」と評価したが、当初価格との差額には言及していない。
今年1月、取締役会がTOB価格5035円の引き上げを要請し、タイヨウがそれを拒否した際には、特別委員会が答申で「価格提案の妥当性を確認」と記していた。
公正性の確保
経産省が2019年に公表した「公正なM&Aの在り方に関する指針」では、MBOのような構造的な利益相反が生じる取引では、公正性を確保する措置の一つとして取締役会を補完する、独立した特別委の設置を挙げている。
遠藤弁護士は「特別委はタイヨウが当初の価格を抑えていた可能性がなかったのかをきちんとヒアリングして判断するべきだ。沈黙を保つことは資本市場に対する役割を十分に果たしているとは言いがたい」と話し、少数株主の利益を図る役割を担う特別委の責任を問う。
同社の特別委は独立社外取締役3人で構成される。日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク理事長を務める牛島総合法律事務所の牛島信弁護士は「外形的には独立している」と評価する。しかし、特別委は3月にリーガルアドバイザーを雇ったものの、フィナンシャルアドバイザー(FA)は採用していない。牛島弁護士は「慎重な特別委であれば、会社側の情報に依拠するのではなく、独立したFAを付けるのではないか」とした。