『怪獣8号』X全世界リアルタイム配信の狙いとは アニメ制作の想いと“KAIJU”文化をPに聞く
世界の「モンスター文化」と日本の「怪獣文化」の違いとは
ーー『ゴジラ-1.0』もアカデミー賞視覚効果賞を受賞して、世界でもまた日本の怪獣文化に注目が集まっています。今回の『怪獣8号』も海外ファンから期待が集まっている作品ですが、世界における「モンスター文化」と日本の「怪獣文化」の違いについてどう考えていますか? 武井:そこは『怪獣8号』というアニメのブランディングを考えた時に話し合いました。結論として「モンスター」という言葉は使わずに、「KAIJU」という言葉を用いることにしました。原作の話なのですが、 怪獣の強さを表す表現として「フォルティチュード」という言葉が使われていて、怪獣は明らかに自然災害のメタファーなわけです。そこは原作を最初に読んで真っ先に素敵だなって思ったポイントでした。1954年のゴジラが水爆の暗喩であったように、日本の怪獣文化の文脈に倣って、『怪獣8号』でもそのメタファーがしっかりと機能しているのがいいんです。 ーーなるほど。 武井:日本は災害の多い国なので、その恐ろしさが想像しやすかったと思うんです。漫画を読んだ時、そこは巧みだなと思ったし、それこそが日本ならではの“自然感”、つまり怪獣であると言えるかもしれないです。 ーー突如現れるだけではなく、そもそも“共生”していると言える存在というか。 武井: 近い概念はあると思っていて、それ前提で生きているというか、それも受け入れざるを得ないという自然観ですよね。自然災害もそうですし、ウィルスもそうですよね、コロナがそうなってしまったように。『怪獣8号』の世界でも、キャラクターたちは怪獣がいることそのものには驚いていません。昔から人間は怪獣の脅威に晒されていた、みたいな歴史が漫画では仄めかされていたりして。Production I.Gさんとご一緒することになって、最初に原作の魅力について語り合ったときも、そこがいいよね、と盛り上がりました。 ーーProduction I.Gさんを制作に迎え、そうした怪獣という存在をデザインするにあたり、どのような考えがあったのでしょうか? 武井:恥ずかしながら、僕自身が怪獣に全く明るくなかったので、それで真っ先に頼りにしたのがカラーさんなんです。それはやはり特撮カルチャーの1番濃い部分をカラーさんが継承されていると思ったので。Production I.Gさんにも賛同いただいて、どうやって描いたらアニメで怪獣を表現できるのか、という教えを請いたい一心で、カラーさんにとてもご助力いただきました。 ーー具体的にはどのような形で? 武井:デザイン面においては前田真宏さんです。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の監督もされているし、デザインや作画など何から何までやられてる方ですけど、今回も多くのお力を借りました。イメージボードを結構な点数描いていただいたり、漫画にはないアニメだけの裏設定を考えていただいたり。原作では名前がない怪獣のネーミングなどもしていただきました。 ーーイメージボードも拝見させていただきましたが、これはファン垂涎の代物ですね……。 武井:アニメの冒頭は1番力を入れるべきところなので、そのセオリーに則って、漫画の第1話冒頭に出てきた巨大怪獣のくだりを、アニメでは相当膨らませています。前田さんから「怪獣の迫力」を描くためのイメージボードをいただき、それをProduction I.Gさんに「防衛隊と怪獣のバトル」として仕上げていただき、一気に『怪獣8号』の世界へと引き込む映像を作っていただきました。それだけでなく、これは『シン・ゴジラ』を作ったカラーさんならではですが、「討伐作戦監修」として、作戦遂行のリアルな流れを考証いただいたりしているんです。要は、怪獣が現れたとなったとき、防衛隊はいつくらいに現場到着して、どれぐらいで体制を立てて、討伐を始めるのか。そしてその作戦立案のシミュレーション自体も作っていただいて、それに合わせて演出をしているんです。 なので、ともに架空の存在である防衛隊と怪獣とのバトルを、リアルに感じていただけるんじゃないかなと思います。それはまさしく、『シン・ゴジラ』で僕らが感じたあのリアルさですよね。