「せがむ娘を抱っこさえできない」闘病で車いす生活をする女性が知った現実と気づいた希望
■車いす生活「せがまれても抱っこさえできない」 ── 現在、5歳になる娘さんは、「すいかちゃん」という珍しいお名前だそうですね。どんな思いが込められているのですか? 海野さん:「水花」と書いて、すいかと読みます。名前の由来は、果物のスイカです。治療のために病院に入院していたとき、食べる気力を失って食欲が落ちていた私をねぎらい、夫が大好物のスイカをいつも届けてくれました。病気の私を支えてくれたのが、スイカだったんですね。
── 素敵なストーリーがあったのですね。娘さんもそれを知っているのですか? 海野さん:娘には伝えました。彼女もスイカが大好きで、お友達に自己紹介するときも、「果物のスイカと一緒だよ!」と嬉しそうに話していますね。 ── 腫瘍の影響で左下肢が動かなくなり、車いす生活をおくっていらっしゃいます。車いすでの育児は大変な場面も多いと思いますが、どんなときにそれを実感されますか? 海野さん:小さな不便は、それこそ山ほどあります。いまよりも幼い時期は、抱っこをせがむ娘の望みを叶えてあげられないことがジレンマでした。子どもを膝に乗せたり、抱っこをすると、重みで車いすがこげなくなってしまいますし、落としてしまうのも怖い。いまは「ママの車いすに寄っかかっていなさいね」と言えば、理解してくれる年齢になったので、だいぶラクになりました。
ほかにも、子どもがソファや車で寝落ちをしたときに抱っこをして運ぶことができませんから、いちいち起こして自分で歩かせないといけません。当然、泣きますけれど、しかたないと割りきっていますね。部屋のなかでも、おもちゃが床に落ちていると車いすが進めないから大変。そんなときは、夫が「おもちゃがあると、ママが進めないよ」と娘を怒って、一緒に片づけていますね。
■できないことは手放す「自分のペースで仕事も育児も」 ── たしかに、小さなおもちゃが床に転がっているだけでも、移動の妨げになってしまいますね。 海野さん:外出となると、さらに大変です。たとえば、保育園の見学に行くのもひと苦労で、とくに階段を上がったりするときは私ひとりでは難しいので、夫に手伝ってもらう必要があります。ですが、施設によっては、「人数制限があるので親御さんはひとりまで」と決められている場合もあって。事情を伝えても、すんなりと認めてもらえるところばかりではありません。そうしたやりとりひとつとっても、時間も手間もかかって大変だったりします。車いすでの移動は、周りの理解がすごく大切になってきますので、当事者として、きちんと発信し、伝えていかなくてはいけないなと思っています。