「睦ちゃん、愛してる」言葉も表情も失い衰弱する妻を介護した夫 難病『意味性認知症』と向き合った夫婦の物語【長崎発】
「意味性認知症」という国指定の進行性の難病を患い、言葉も表情も失い衰弱していく妻を懸命に介護し愛情を注ぎ続ける夫。夫婦の時間を噛みしめるように暮らす2人の姿を見つめた。 【画像】月に一度は夫婦そろって美容室へ
5年前に妻を襲った難病
難病と向き合う夫婦がいる。ただ今を生きる妻。夫はその全てを受け止めた。 岩永嘉人さん: 大丈夫?きつかったら目をつぶっていていいよ。 嘉人さんは繰り返し睦さんに伝える言葉がある。 岩永嘉人さん: 愛してる、愛してる、睦ちゃん、愛してる。 2023年10月、西彼杵郡時津町にある岩永さん夫婦の自宅を兼ねたギャラリーで個展が開かれた。岩永嘉人さんは妻で画家の睦さん(当時68)が元気だった頃の作品を展示した。 「ひょっとしたら最後になるかもしれないという思いもあって、できたら自宅で、彼女が一番好きだった空間の中にその時描いた絵を飾りたい思いがあった」と語る嘉人さん。 元中学校の教員で美術作家の嘉人さんは、妻の介護に専念していた。睦さんは言葉を発することも喜怒哀楽を表現することもできない。5年前、65歳の時に国指定の難病「意味性認知症」と診断された。 脳の側頭葉の一部で血流が低下し、それが言語と運動機能の障害につながり、症状が進むにつれ絵が描けなくなり、言葉も表情も失い身の周りのこともできなくなった。
介護の日々、そして無償の愛へ
一人息子が独立し、二人暮らしの岩永さん夫妻。睦さんの介護はデイサービスを利用しながら嘉人さんが一人で担っている。 岩永嘉人さん: いただ…、いただ…もう口がそうなっちゃったね。いただきます。あー、言わなかった残念です。はい、あっ、ダメだ。やっぱり口が硬くなってる。 意味性認知症に根本的な治療方法はない。睦さんは病気の進行が早く、介護のレベルは診断を受けてから3年で最も重い要介護5になった。嘉人さんは現実を受け止めるしかなかったという。 「どんどん介護がきつくなってくると妻を愛せなくなるかというのとは僕は違った。彼女を理解するほど無償の愛に変わっていったのかも」と話す嘉人さん。 2人で毎日を大切に生きていこうと心に決め、幼子のようになった睦さんに愛情を注ぎこんだ。