路上生活の少年、父になる わが子には「警察官になってほしい」と願う
ネパールの首都カトマンズにあるダルバール広場。古いチベット仏教建造物の並ぶこの一角は、人気の観光名所でもある。2009年、僕が初めてストリート・チルドレンと遭遇したのがこの広場だった。 ◇ ◇ 年月が経つにつれて、あどけなかったクリシュナの顔にも徐々に精悍さがついてきた。 昨年会った時、彼はもう一人ではなかった。嫁さんをもらい、一児の父親になっていたのだ。たどたどしく歩く息子のサクティは1歳を過ぎたばかり。嫁さんのスニータと彼女の父親と共に、テレビ1台があるだけの小さな部屋で暮らしていた。極貧状態とはいえ、どうにか「住処」ができたようだった。 ペンキ屋であるスニータの父親に仕事が入ると、クリシュナはそれを手伝い幾ばくかの小遣いを得るが、大した額ではない。 「サクティにどんな大人になってもらいたい?」 僕はクリシュナに尋ねた。 「警察官がいいかな。ネパールのためになるようなことをしてほしい」 思いもかけぬそんな彼の言葉に驚かされた。父親になったことで、彼の内面も成長したのか、社会を見る目も変わったのか?しかし、どこまで本気で答えているのかはわからない。 「食べるものさえあれば、金はそんなにいらないよ」 そうはいっても、サクティが成長すれば部屋を借りなくてはならないし、警察官になるための学費もかかるだろう。そう指摘すると、 「そうだな、やっぱり金がいるなあ」 ふうっと、深いため息とともにクリシュナはタバコの煙を吐き出した。 (2016年3月撮影) ※この記事はフォトジャーナル<ネパールのストリートチルドレン>- 高橋邦典 第50回」の一部を抜粋したものです。