56年前の感動再び…「人間洗濯機」万博に向けて開発 83歳技術者の夢をミラブルが引き継ぐ「もう一度、世界に“技術大国・日本はここにある”と見せる」
2025年の大阪・関西万博を半世紀以上、心待ちにしてきた人がいる。「元気で長生きしてなあかん」と語る山谷英二さん(83)は、元三洋電機エンジニア。1970年の大阪万博で展示された「人間洗濯機」の開発者だった。 【映像】56年ぶりに復活「令和版・人間洗濯機」
卵形の浴槽にモデルが入ると、自動で給水を始め、体を洗浄する。超音波を用いることで、こすらなくても体の汚れが落ちるという“魔法のお風呂”だった。30歳で開発した山谷さんが、当時を振り返る。 「ある人に『人間を洗うなんて失礼や』と言われ、モデルに『ごめんな、こんなところに押し込んで』と頭を下げた。開発はその後も続けたが、世には売れなかった」(山谷英二さん)
山谷さんが務めた三洋電機は、1953年に全国初の「噴流式洗濯機」を開発していた。創業者の井植歳男氏から「人間を洗う洗濯機を作れ」と命じられ、山谷さんは「普通の洗い方では、会長は絶対に納得しない」と調べていると、「ある大きさの泡は超音波を発生する」という文献が見つかった。 しかし当時の技術では、人間の毛穴に入り込むほどの小さな泡を人工的に作れず、1970年の大阪万博では、浴槽に凹凸のあるマッサージボールを入れて、物理的に汚れを落とす方法で代用した。その後も山谷さんは実用化を目指したが、実現に至らないまま定年退職となった。
そんなある日、テレビを見ていたら「これや!」と感じるCMが流れてきた。大阪にあるベンチャー企業「サイエンス」のシャワーヘッド「ミラブル」。1本4万円台と高価格帯にもかかわらず、発売6年で150万本以上のヒット商品だ。 山谷さんが思わずメーカーに電話すると、万博に人間洗濯機を出そうとしているとの返事が。開発に協力してほしいと言われ、「絶対手伝わなあかん」と決意した。実は、ミラブルの発案者であるサイエンスの青山恭明会長は、14歳のとき大阪万博で見た人間洗濯機に心をひかれた。 「人間がこれから体を洗わなくてよくなるなんて、あり得ない世界だった。親にねだって会期中に20回ぐらい行った」(サイエンス・青山恭明会長) 青山氏は大学卒業後、いくつかの会社で働くも、万博で見た人間洗濯機が忘れられず、2007年にサイエンスを設立。造船会社でスクリューを作る仕事をしていた平江真輝専務を相棒として、2008年に湯船つかるだけで汚れが落ちる「ミラバス」を発売した。2018年開発のミラブルは、そのシャワーヘッド版だ。