自動車のリサイクル率、98%からなぜ減少? 車体の「長寿命化」がもたらす意外な落とし穴とは
ASR処理の遅れが引き起こす課題
課題はこれだけではない。 自動車の軽量化や多機能化が進んだ結果、使用される原材料に占める非金属の割合が増加してきた。使用済自動車は、解体業者によってエンジン、トランスミッション、触媒、タイヤ、バッテリーなどの部品が取り外され、残りは破砕業者によって破砕される。その後、 ・鉄 ・非鉄金属類 ・ASR(自動車破砕残さ。プラスチック、ゴム、布、樹脂、ガラスなどが多く含まれている) に分類される。解体と破砕の段階では、重量比で約80%の資源が回収される。そして、破砕後に残るASRが約20%となり、このASRを適切に処理することによって車両全体の90%以上のリサイクルが達成されている。 しかし、原材料に非金属が増えることによって、このASRに含まれる樹脂類の量が増加しているのだ。ASRの発生量はリサイクル法施行前とほぼ変わらず、そのため従来の金属中心のリサイクル方法では対応が難しくなってきている。 さらに、2018年には外国でプラスチックなどの輸入規制が強化されたため、輸出されていたプラスチックくずの国内処理が必要になった。この影響で国内処理工場にトラブルが発生し、ASRの処理が遅れる事態も起きてしまった。
EV普及が生む新課題
一見、自動車リサイクルが限界に達しているように見えるが、実際はそうではない。自動車の寿命が長期化していることは、自動車リサイクル法が目指している取り組みが成功している証拠でもある。 ASRに含まれる樹脂類の処理についても、リサイクルを促進する取り組みが進められている。たとえば、経済産業省と環境省は使用済自動車に係る資源回収インセンティブ制度の導入に向けた検討を行っている。 この制度では、ASRが発生する前段階で樹脂やガラスなどの資源を回収し、ASRの発生量を減少させることが目指されている。これにより、ASRの再資源化が円滑に進み、 ・リサイクル料金の低減 ・自動車リサイクルの安定的な運用 が期待されている。また、自動車技術の進歩にともない、新たな課題も浮上している。それは、電気自動車(EV)の普及だ。特に、EVに搭載されるリチウムイオンバッテリーが新たなリサイクル対象となり、その処理には特別な注意が必要だ。このバッテリーは発火リスクがあり、またレアメタルを多く含んでいるため、安全な資源回収と再利用が急務となっている。 自動車リサイクル法が自動車メーカーにリサイクルの責任を課したことで大きな成果を上げたように、日本の自動車リサイクルシステムを次のフェーズへ進めるためには、自動車メーカーの役割が重要だ。 現在、多くのリサイクル事業者は自動車メーカーとの強い連携を持っていないため、そのハードルは高い。しかし、自動車リサイクルは製品開発から廃棄に至る自動車の一生を通して取り組む必要がある。そのため、リサイクルの発展や高度化には、どんな技術開発よりも「連携」が不可欠だといえるだろう。
喜多崇由(フリーライター)