倉本聰が記者に「恥を知りなさい」と怒った理由。Netflix 岡野真紀子プロデューサーに聞く、映像業界の女性20年
「休むことは恥ずかしい」と思っていた
── 岡野さんがNetflixに入られて3年が経ちました。作品制作に向き合う姿勢も変化しましたか。 岡野:すごく変化しましたね。映像業界の仕事って、作品のためなら犠牲もいとわないという感覚が主流なんです。だから、睡眠時間を削ってでも働こうとしてしまう。 ただ、寝不足だとみんなイライラしますし、休日がないと家族や友人との時間も取れません。 その点、Netflix作品では撮影時間は1日12時間以内までと制限していますし、完全休日も作っています。 ちゃんと休みを取れているおかげで、みんなすごく集中してクリエイティブに向き合えている。ワークライフバランスを整えるからこそ、いい作品が生まれると考えています。 ── 岡野さんも休みを取るようになりましたか? 岡野:なりましたね。もちろん、仕事と趣味の境目が曖昧なので、脚本を読んでしまったりはするんですが(笑)。 でも、Netflixに入る前は「休むことは恥ずかしい」という感覚があったんです。今はむしろ休むことが誇りと思えるようになりました。 Netflixのコンテンツ最高責任者にベラ・バジャリアという女性がいるのですが、彼女に言われたのが「とにかく楽しみなさい。楽しまないと、楽しませることなんてできないよ」と。楽しむためにも余裕は必要なんですね。
「今の発言はどうなの?」指摘できるように
── 労働時間以外でも、Netflixには業界に導入したさまざまな制度がありますよね。 岡野:はい。例えば、性的シーンで監督と俳優の間に立って調整する「インティマシーコーディネーター」は、Netflixの映画『彼女』(2021)においてNetflixが日本で最初に導入しました。 撮影現場でお互い敬意をもった言動をするためのワークショップである「リスペクト・トレーニング」もそうです。 ── 岡野さんがエグゼクティブ・プロデューサーを務めた新作『さよならのつづき』でも、有村架純さんや坂口健太郎さん始め、キャスト・スタッフ全員が「リスペクト・トレーニング」を受けられたということでした。撮影現場の雰囲気が、ずいぶん変わるようですね。 岡野:はい。風通しが良くなって、「今の発言はちょっと違うと思います」みたいなことが、年齢や性別、立場関係なくお互いフィードバックしやすい環境に自然となっていくんです。こういった取り組みはNetflixだけでなく、少しずつ業界に広がっているんじゃないかな。 ── そういう意味でも、性別を強く意識せざるを得ない時代から、意識しない時代に近づいているということなんですね。 岡野:そう思います。もちろん、完全に意識しない環境になるにはまだまだ課題はあるし、女性だけで改革を進めることは難しい。男性の協力も不可欠です。 ですが、これからも多様な作り手と共に、観る人に感動や新しい視点をもたらす素晴らしい物語を届けられるよう、環境を整え続けていきたいと思っています。
野田 翔