県知事のアドバイザーは高校生 eスポーツや自転車で地域を変えたい
4月に施行されたこども基本法は、こどもや若者にかかわる政策について、こども・若者の意見を聴くことを国と地方自治体に義務付け、各地で取り組みが始まっています。群馬県は全国で初めて、高校生が知事のアドバイザーになる制度を作り、高校生が提言を発表しました。 ◇ ■リバースメンター制度とは? 群馬県が始めたのはリバースメンター制度です。メンター制度とは企業などで先輩が後輩の相談にのり、助言するものですが、リバースメンターとはその関係を逆転させ、若手が上司や先輩に助言する仕組み。群馬県では応募してきた高校生の中から今年8月、10人(9チーム)がメンターに選ばれ、3か月間、専門家や県の担当者の意見を聞くなどして提言をまとめ、11月23日、山本一太知事に説明しました。知事が必要だと判断した提言は、実現に向けて高校生と県が協議し、合計500万円の予算も用意されています。 ■自転車観光やeスポーツで世代間交流 早速動きが ある高校生は自転車による観光「サイクルツーリズム」による地域活性化を提言しました。すると早速、知事とこの高校生が一緒に観光地を自転車で訪ねることになりました。また、eスポーツで地域のつながりをうむという提言もありました。オンラインゲームには高齢者も楽しめる穏やかなものもあることを知事に体験してもらった上で、世代を超えて対戦できる大会の実施を提言しました。知事は「世代間交流の大会はできれば来年3月までに開催したい」と答え、提言した高校生は「今まで世代間交流の大会はなく、群馬県がそのトップに立てると思う。」と笑顔を見せました。 一方、2人組の高校生は、子宮けいがんを防ぐためのワクチンと検診の啓発を訴えました。若い世代がよく見るTikTok(短い動画を投稿するSNS)による情報発信を提言、自分たちで考えた踊りを知事にその場で覚えてもらい、一緒に披露しました。また、希望者のみの接種を前提とした学校での集団接種や生理用ナプキンのパッケージにメッセージを入れることなども提言しました。 知事は県としてTikTokでの発信とナプキンのパッケージデザインなどには取り組めると話し、高校生は早速、この日、県の担当者と打ち合わせを行いました。 ■学校内でこどもの意見反映を 約3000校の学校の校則を調べてHPで公開している高校生は、こどもたちの意見を反映させるため、日本初の「学校内民主主義条例」を提言しました。中学時代、午後4時までは外出禁止、登下校時の靴は白色といった校則を変えたくても変えられなかった経験を話し、「世の中は変えられない」と思うこどもたちが多いと述べました。そして県が条例を作り、学校の校則や成績の決め方、購買部などについて、こどもが意見を言えるようになれば、こどもの意識も変わり、群馬から日本全体にそれが広がり、社会の活性化につながると強調しました。 また校則を変えるための規定がないことも指摘。県内統一で、校則改正の既定を作るほか、校則の決定や改正にこどもたちがどの程度参加しているか調査してほしいと述べました。 知事は「校則をめぐる制度自体は、独立した教育委員会の管轄だが、学校内民主主義を担保するというアイデアはすごくいい。教育長とも相談したい。」と答えました。 また、医師を目指す高校生は、身近な外国人と話すと、病院に行ったことがない、受診経験があっても言葉が理解できず困る例が多いなどとして、群馬県内の医療通訳者を集め、多言語の医療通訳センターを作り、電話やオンラインで24時間対応するよう提言しました。知事は「国全体で進めるべきだ」とし、この高校生とともに国に要請したいと述べました。 ■LGBTQや学校が苦手な人への対応は ある高校生は、学校の制服と頭髪に関する男女の区別の撤廃と教員向けLGBTQに関する講習会などへの参加を必須にするよう訴えました。「私のような例はまだ少ないと思いますが、体は女子で男子の制服を着ている生徒はどちらの校則が適用されるのか」「(頭髪チェックで)男子の校則(適用)だから髪を切って来なさいと言われてつらかった」と語りました。そして「自分が少数派である世界を想像したことがありますか。いわゆる世間一般と少し違うから、そんな理由で、わがままと言われ、否定される日々が続く。私の話を理解してほしいとか、受け入れてほしいとは思いません。今の高校生がこんなふうに思っている、こんなつらいことがあるんだというのを受け止めて」と訴えました。知事は、県立高校教員へのLGBTQ関連講習会の実施状況などを調べると答えました。 ほかの高校生は「登校しようとすると胸が苦しくなる」と述べ、不登校の数には含まれていないが、学校に行くのがつらい人がいると訴えました。そして「少し体が楽なのは、楽しみな授業がある日」という自らの経験から、学校での少人数のワークショップや県による「公営塾」を提言しました。いわゆる塾ではなく、面白さを追求し、宇宙など様々なテーマを学ぶと説明。 知事は「人は面白いと思わないとやらない。苦手なものではなく、好きなものを学べる場だ」と「公営塾」に前向きな姿勢を見せました。 また生徒会協議会の活動費助成を要望し、政治に若者の意見を取り入れる仕組みを、と訴える高校生もいました。そして、クビアカツヤカミキリという外来種による桜や梅の木の被害が増えていることを調べた高校生は、児童・生徒が日常的に桜の状態を観察する活動や公園にこの虫を捕獲して入れる箱を設置するなど予防策を具体的に示しました。 ■群馬県・山本知事「若気の至りの方が…」 山本知事は「皆さんが提言するということは影響力を持つということ。非難や反発は県や知事がひきうけるが、世の中から反発もある、そういう覚悟も必要だということをリバースメンターの活動で知ってほしい。」「色々な価値観の人とつきあう機会を持ってほしい」「自分も65歳だから老害になりそうと思いつつ、老害よりも若気の至りで失敗する方が絶対世の中ましなので、がんばって下さい」と述べました。 また、この制度の運営をサポートしている「笑下村塾」を立ち上げた、お笑い芸人で主権者教育をしているたかまつななさんは「来年3月までの任期で、一つでも多く事業化し、社会を変える経験をしてほしい。それを見た周りの生徒も『私も行動してみよう』と思うなど波及効果もあるだろうし、この10人には進学や就職してもこうした姿勢を続けてほしい」と期待を示しました。