「移民社会」アメリカが変わる? トランプ氏が掲げた過激主張
米大統領選でのドナルド・トランプ氏の勝利は、衝撃を持って受け止められている。反移民政策など過激な主張を打ち出してきた「トランプ大統領」の誕生は、アメリカ社会の根底を変えるかもしれない。米政治に詳しい成蹊大学の西山隆行教授に聞いた。 【写真】オバマ大統領が目指す移民改革 行政命令で“強行”した背景
■敵が多い大統領
「これだけ身内に敵が多い大統領はいない」と西山氏は言う。トランプ氏は、共和党の正式な大統領候補になって以降も、ライアン下院議長やマケイン上院議員ら党重鎮らが相次いで「不支持」を表明するなど、党の主流派と対立してきた。 西山氏が9月に米国を訪問した際、ある州の共和党幹部が「トランプが大統領になった場合は罷免して副大統領を大統領に昇格させる可能性」を示唆するほどだった。
■「怒り」の背景
ワシントンの米政界からは多くの批判を受けてきたトランプ氏だが、大統領選では予想を覆す形でヒラリー・クリントン氏を退け、勝利を手にした。今回の大統領選では、予想以上に強い「白人の怒り」が露わになったが、その背景には何があるのか。 西山氏は一つのデータを挙げる。米国の中年白人の死亡率の推移だ。45歳~54歳の死亡率を、米国の中南米系住民や他の先進国と比較したものだが、先進国では医療の進歩で死亡率は減少傾向なのに対し、米国の白人は1990年代半ば以降、上昇している。死因は多い順に、ドラッグ・アルコール中毒、肺がん、自殺など。貧困率や失業率については中南米系住民より幾分良い状態ではあるが、彼らは「社会への絶望感が強い」(西山氏)という。 2050年までに米国では白人が過半数を割り、2065年にはアジア系が中南米系より増えるとの予測もある。白人の人口比率は下がり、地位の低下が予想される。西山氏は今回の選挙で、少数派になる白人がその状況を恐れて「既存勢力には信頼できない。一か八かの勝負に出た」と分析する。
■移民政策を転換?
トランプ氏は選挙中、メキシコ国境に万里の長城(壁)を築くことや、1100万人いるとされる不法移民を強制送還することを主張するなど、不法移民に対して厳しい姿勢を見せることで米国内の右派から支持を得てきた。白人の低所得層には移民に職を奪われたと感じている人も少なくない。 西山氏は、トランプ氏が移民政策を見直して、「移民を増やさない方針を取る可能性がある」と危惧する。白人社会では少子高齢化が進み、移民がいるからこそ米国の人口が増加している状況だ。建国以来、米国はずっと移民を受け入れてきた。「移民を止めると米国経済としては痛手だ」と西山氏は警鐘を鳴らす。
■最高裁判事の人選
1人欠員となっている米連邦最高裁の判事に関連し、米国が変容する可能性をもう一つ指摘する。現在の連邦最高裁の判事は、保守・中道派とリベラル派が4対4で拮抗しているが、大統領になったトランプ氏が保守系の人物を指名する可能性が高い。そうなると、保守派が強くなり、人工妊娠中絶の規制を違憲とした判決や同性結婚を容認した判決などが覆される可能性が出てくる。西山氏は、これまで積み上げてきたものが崩れるとして「アメリカ社会として大問題になる」と指摘した。