被災地癒やす力作 氷見市美術展開幕 5部門に120点
第62回氷見市美術展(富山新聞社後援)は3日、市芸術文化館で開幕し、日本画、洋画、彫刻工芸、書、写真の5部門に出品された120点が会場を彩った。出品者の中には元日の能登半島地震で実家を失った人もおり、震災を乗り越えた力作が並んだ。来場者は心を癒やす芸術文化の力に触れた。 ●書の池田さん、実家解体乗り越え出品 書で奨励賞に選ばれた池田裕子さん(68)=十二町=は地震で自宅と、同じ敷地にある実家が被災した。実家の公費解体のため6月に家財整理をしていた際、亡くなった父の手帳を見つけた。米国の詩人サミュエル・ウルマンの「青春の詩」が記されており、池田さんは「『年を重ねるだけで人は老いない』との言葉に勇気をもらった」という。 市展初出品へ創作意欲が湧き、練習を重ねた。池田さんは「年は取ったが、これからは地震を乗り越え、また青春をしたい」とさらなる精進を誓った。 日本画で大賞に選ばれた中野明美さん(窪)の「勝興寺 唐門」は国宝の古(こ)刹(さつ)を隅々まで丁寧に描写し、質感や空気感も細やかに表現した。洋画大賞の能作一雄さん(高岡市)の「爽やか」は伏木地区の岬を雄大に描き、色調を豊かにまとめた。 彫刻工芸大賞の中尾三枝子さん(比美町)の「極」は幾何学的な釉薬(ゆうやく)の流れ、書大賞の金森久美子さん(稲積)の「茂吉のうた」は潤渇(じゅんかつ)のある線の温かさが目を引いた。写真大賞の高西正昭さん(島尾)の「散りてなお」は桜の花びらが庄川の水面に咲いているような光景を切り取った。 会場には富山新聞社賞の受賞作など創意工夫が凝らされた作品が並んでおり、自宅が損壊した野中盛之さん(77)=稲積=は豊かな作品群に「つらかったが、皆さんの力作に元気をもらった」と笑顔を見せた。 開会式で西川扇博運営委員長は震災に触れ「大変な時期に120点もの力作が集まった。被災地の癒やしになってほしい」とあいさつした。林正之市長、積良岳市議会議長、寺下利宏氷見商工会議所会頭が祝辞を述べた。 会期は8日までで、6日は午後2時から会場で箏(こと)のミニ演奏会が開かれる。