戦中、復帰の記憶つづる 奄美の満85歳「常夏会」会誌発行
旧鹿児島県名瀬市(現奄美市名瀬)の小中高校で学び今年度満85歳となる同窓生組織「常夏会」が、戦時中や戦後の米軍統治下から日本復帰にかけての記憶をつづった会誌「蘇鉄(ソテツ)の花咲きくれば…」を発行した。当時の学校生活や日々の暮らしなどに関する会員62人分の手記が収録されている。発起人の和(にぎ)秀雄さん(84)と宮山紘一さん(同)は「多くの会員から文章を集めることができた。思い出を振り返る機会になれば」と完成を喜んだ。 常夏会は学校の枠を越えた同窓会で、1957(昭和32)年発足。会員は38(同13)年度生まれで、名瀬市街地にあった奄美小、名瀬小、名瀬中、大島高、大島実業高(定時制含む)のいずれかに短期間でも通ったことがある人たち。 会誌の作成は、新型コロナウイルス禍で会員らの交流の場がない中、思い出を文章で共有しようと和さんと宮山さんが昨年11月に企画。過去の名簿を頼りに会員らに手紙や電話で連絡し協力を呼び掛けた。 当初は手作りで冊子にまとめる予定だったが、今年3月に奄美市が公募した「紡ぐきょらの郷(しま)づくり」事業に応募。市の助成を得て、写真資料なども盛り込みながら約1年かけて本格的に仕上げた。貧しい時代にソテツで空腹をしのいだ共通の経験から、会員が詠んだ短歌の一部を表題に選んだ。 会員から寄せられた手記には、かつての経験や感じたことなどがありのままにつづられている。戦時中の疎開や空襲による被害、米軍統治下の貧しい暮らし、復帰運動に参加したことなど身近な出来事や生活状況のほか、子どもたちの遊びや学校での方言禁止、いたずらをして叱られた思い出など時代を感じさせるエピソードも記されている。 和さんは「昔のことなので、うろ覚えだったり解釈が間違っていたりするかもしれないが、それも含めてそれぞれの〝記憶〟としてまとめた」と説明。「この年になると余命も短く1日1日が勝負。島を離れて長い人たちもいる。(会誌で)会員たちを元気付けたい」と期待した。 会誌は計300部発行し会員らに配ったほか、市内の小中高校や図書館、公民館などに配布する。宮山さんは「収録されているのは歴史の授業では出てこない生の声。子どもたちが手記を読んで『こんなことが名瀬であったのか』と身近に感じ、今の環境が恵まれていることを理解してもらえたら」と話した。