世界中で「キモノ」が巻き起こしたセンセーション...ドレスから「あのSF映画」にまで、変幻自在の大進化
プロパガンダや映画にも
初めて海を渡った着物はたちまちセンセーションを巻き起こした。フランスの画家マティスの妻アメリなど著名な人物の肖像画に描かれるようになり、ドレスの大規模な「脱構築」が起きた。 例えば、ロンドンのクチュリエ「ルシール」の服はデザイナーのレディ・ダフ=ゴードンによる優美なドレープが特徴だが、これも着物から着想を得た裁断法のたまものだ。 着物の優美さは生地や素材から生まれるといっていい。綿や麻、カラムシ(イラクサ科の植物)......。特に、軽さ、光沢、豊かなドレープ性などを備えた絹は、極上のデザインにうってつけだった。 1930年代、日本は戦争のプロパガンダの商品化を推進したが、子供の玩具や文房具、さらに着物までが戦意高揚に利用された。 戦時中の人気漫画『のらくろ』の主人公のらくろは帝国陸軍の非公式マスコットになり、着物姿で描かれた。今回の着物展でも何点か展示され、戦争のイメージが青少年の着物の柄に結び付けられている。着物による戦意高揚が日常茶飯事と化していたことに気付かされる。 着物の影響は現代映画にも表れている。『スター・ウォーズ』の衣装の大半は着物をヒントにしている。ジョージ・ルーカス監督は若い頃、日本の名匠・黒澤明の作品に影響を受け、それがアレック・ギネス演じるオビ=ワン・ケノービの衣装にまで及んだ。 2015年にJ・J・エイブラムス監督による新シリーズが始まった際も、衣装デザイナーのデイブ・クロスマンは着物風の衣装にこだわった。 オランダ商人が初めて紹介したときから、エキゾチックな着物がヨーロッパのファッションに浸透することは必然だった。 着ていて自由に動ける点や模様の見事さを歓迎した19世紀ヨーロッパの淑女たちから、着物を取り入れたデヴィッド・ボウイやビョークなど20世紀の様式美あふれるアーティストまで、キュレーターのジャクソンは着物を変幻自在な衣装として体験させる。 アレキサンダー・マックイーンや斉藤上太郎ら着物に独自の見解を持つ現代のデザイナーたちの作品は、この着物展のクライマックスだ。 最終セクションは現代のデザインの融合。素材とトレンドの融合が、イギリスのデザイナーでナイジェリア生まれのデュロ・オロウの大胆なモチーフなど、今後の探究に無数の可能性を開く。 この幾重にも織り上げられた着物展で創作と結び付きを体感し、現代のファッションを通して日本を象徴する衣装の進化を目撃してはいかが? Rosanna Rios Perez, Robert and Lisa Sainsbury Fellow (SISJAC), University of East Anglia This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
ロサナ・リオス・ペレズ(英イースト・アングリア大学セインズベリー日本芸術研究所フェロー)