二宮和也主演「ブラックペアン シーズン2」原作を読んでいてもドラマの展開はわからない 違うんだけど抵抗がない理由とは
■原作のシリーズ読破で「ブラックペアン」の世界に切り込め!
何よりドラマは、渡海と天城を同一人物が演じるという飛び道具的設定が楽しい。初回で世良が天城を見て「僕の指導医に瓜二つ……!」と驚く場面なんて、おそらく全視聴者が「そりゃそうだろ」と突っ込んだに違いない。だが原作者の海堂尊のインタビューによると、セリフがなく見た目も手術着というキャラを出せない場面で、ニノはまったく違うタイプの外科医を演じ分けていたとのこと。いやそれすごくない? その天城が「渡海」という名を聞いて、小さく反応した場面がある。原作の『ブレイズメス1990』にそんな場面はない。ということはドラマの中ではふたりに何か繋がりがあるという設定にするのか。これが「異なるレイヤー」の面白さだ──と、思っていたら! ドラマの放送に合わせるかのように7月上旬に刊行された『プラチナハーケン1980』(講談社)で、なんと渡海と天城が出会う場面があるじゃないか! そして佐伯教授はふたりを指して「合わせ鏡のような存在」と言うのである。 いやこれ、絶対ドラマシーズン2の話が出たあとで書いたでしょ! 渡海と天城が合わせ鏡って! ……だがドラマに関係なく、ふたりが知り合いだったといわれても納得する。なぜなら海堂尊の医療ミステリはすべて同じ世界線で描かれており、あっちこっちに同じ人物が登場するのだから。渡海は『ひかりの剣1988』にも出てくるし、佐伯や高階に至っては東城大医学部附属病院が舞台となるほぼすべての作品に出てくる。あんたらこんなところで会ってたのかよ! というケースは多々あるのだ。これが楽しい。 たとえば『スリジエセンター1991』の最後の一文は、こうだ。〈十数年後。日本の医療は(ネタバレにつき略)青年の、たなごころの上で転がされることになる〉 青年とは世良のこと。どうですか、10年後の世良が何をするのか気になるでしょ。その様子は北海道を舞台にした『極北クレイマー2008』『極北ラプソディ2009』(講談社文庫)で読める。 ドラマで描かれるのは、海堂尊の世界の一部でしかない。他の作品で活躍する多くの登場人物がカットされている。海堂尊の世界は1冊だけ、あるいは1シリーズだけでは測れないのだ。ぜひ全作読破して、そのつながりを楽しんでほしい。 大矢博子 書評家。著書に『クリスティを読む! ミステリの女王の名作入門講座』(東京創元社)、『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』(文春文庫)、『読み出したらとまらない! 女子ミステリーマストリード100』(日経文芸文庫)など。名古屋を拠点にラジオでのブックナビゲーターや読書会主催などの活動もしている。 Book Bang編集部 新潮社
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