雇われるだけじゃない。寝たきり社長が語る「障がい者が起業できる社会」
障がい者の起業が想定されていない社会
障がい者は、ハンディキャップを持っているには違いないし、それが克服できるようなハードやソフトの整備も必要であることに違いない。そして、社会はその方向に動いている。 たとえば「障害者雇用促進法」という法律だ。国は、障がい者と障がい者でない人が均等な雇用機会が得られるよう、法定雇用率を設けて、障がい者の雇用を義務付けている。しかし、二人は「この法律は、本当の意味で障がい者の社会進出を促進しているのだろうか?」と問題提起をする。 佐藤さんは「仙拓の障がい者雇用率は何パーセントだと思いますか?」と問いかける。答えは「ゼロパーセント」だ。 社長の佐藤さんと同じ病気を持つ副社長の松元拓也さんは役員なので、数字にカウントされない。ほかの障がいのある社員は、なかなか週に20時間以上働けない。短時間労働者とみなされ、障がい者の雇用率に反映されない……。 さらに恩田さんは、障がい者の社会進出を考えるうえで、「現在は、障がいがある人が経営することを想定していない制度になっている」と指摘する。恩田さんは続ける。「障がい者を補佐する立場の人に対して、人件費として補助金が出ますが、それは、その障がい者が従業員である場合です」。つまり、経営者が障がい者の場合には補助金が出ないのだという。 「社長になった障がい者が、たとえば健常者をたくさん雇う。そうやって、健常者、障がい者という分け方をしないでいい社会をつくっていければいい」と恩田さん。 障がいを持った少なくない数の人は「会社が雇ってくれない」と嘆く。佐藤さんも、一時はそう考えたが、自分の会社を設立した理由は「雇ってくれる会社がなければ、自分で作ればいい」だった。障がい者は、被雇用者としてのみ、社会参加するのではない。雇用者としても社会を作っていくのだ。
佐藤さんが経験した「絶望」とは?
そんな強い意思を持った佐藤さんでも「絶望」した経験はあるのだろうか? そう聞いたら、佐藤さんは「あります」と答えた。 2015年の終わりから2016年の7月にかけて、呼吸不全で入院し、気管を切開して声を失う可能性のある手術をした。一時期は集中治療室に入り、医者からは「もう話せない」と言われた。喋るのが好きなのに、それができなくなる。「声が出ない状態で生きていくのが怖かった」と。 できることができなくなっていく絶望感だったのだろう。結局、声を失わずに済んだが、その恐怖と戦っているうちに「声の出ない人は、意思伝達をどうしているんだろう」とそんな疑問に考えが及んだ。