豊田章男会長の「スニーカーのようなクルマを作ってほしい」の一言から開発された「レクサスLBX」の魅力解剖 一斉を風靡した英国車「バンプラ」を想起させる“小さな高級車”のプレミアム感
久しぶりの“小さな高級車”の成功例か
さて“小さな高級車”の例題としてバンデン・プラ・プリンセスに注目したのには理由があります。個人的にミニやバンデン・プラ・プリンセスに乗っていた経験があり、英国車趣味が強いことは否定しません。しかし、それだけでなく、バンデン・プラ・プリンセスにはロールス・ロイスを始めとした「英国流儀の高級」が、この小さなボディの中に凝縮されているからです。小ぶりながらも、高級ブランドやプレミアムカーの世界観、そしてクオリティの高さで得られる満足をしっかりと示してくれたからです。 その一方で、現在に至るまで実に多くの自称“小さな高級車”が登場してきました。国産だけでも日本の自動車メーカーは“小さな高級車”への挑戦を続けて来たのです。トヨタの「プログレ」や「オリジン」、日産は「ローレル・スピリット」や現行モデル「ノート・オーラ」、マツダの「ベリーサ」などを始め、小さな高級車としてのチャレンジはざっと考えただけでも、けっこうあるのです。ただ、あくまでも私見ですが、いまだバンデン・プラ・プリンセスを超える存在が見当たりません。 多くの“小さな高級車”たちは、シートなどの素材やオーディオ、外装パーツなどをコスパ良く盛り込んだ、どこか“バーゲンセール的な仕様”が目立つのです。つまりお買い得とプレミアムが同等のように考えられているような仕上げです。もし成功例があるとすればBMWが手掛けた「新型ミニ」が筆頭に来ると思います。そして「アウディA1」や、シトロエンの高級ブランドという位置づけの「DS3」といったあたりでしょうか。 では今回の主題、レクサスの「LBX」はどうでしょう。ボディ・サイズは全長4,190mm×全幅1,825mm×全高1,560mm、ホイールベース2,580mm。トヨタの「ヤリス」や「ヤリス・クロス」などといったコンパクトカークラスと同じGA-Bプラットフォームを使い、搭載しているエンジンは3気筒1.5L。レクサスとしては初となるBセグメントに入るコンパクトSUVですが、その外観は「ショート&ワイド」で、小ささを感じさせないほどのボリューム感があります。とくに力強さのあるフェンダーと、大きめのタイヤによる外観には、どっしりとした安定感があります。そして「UX」よりワンサイズ小さいレクサスのエントリーモデルとは言え、小さくまとまることのない、ダイナミックな佇まいは、都会の雑踏の中でも存在感を発揮します。 同様にインテリアにも上級のレクサス・ブランドに通じるクオリティの高さがそのまま移植されています。今回ドライブするモデルは「リラックス」というモデルで、内装の各所に多用されている手触りのいい合成皮革は、本革と見分けがつかないほどの仕上がり。インテリアのデザイン全体は控えめながらも、レクサスの上級SUVであるRXのスケールダウンのように感じるほどのプレミアム感があります。当然ですがヤリス・クロスの単なるお色直しというレベルの仕上げではありません。 そんなインテリアの上質さに満足しながら走り出すます。スルスルッと走り出すハイブリッドのフィールは、レスポンスもよく、加速していきます。セレクターをDレンジにすれば「ECOモード」でもとろさを感じることなく、しっかりと走ってくれるのです。特別に飛ばすこともなく、ごくごく普通に走っていてもキビキビさもあり、物足りなく感じることはないのです。ただ、少々元気よく走ってバッテリー残量が少なくなると3気筒の1.5Lエンジンが回り出すので、さすがにエンジン音が気になります。それでもスポット溶接点の増加などを始めとした剛性強化を施したシャシ性能の高さ、バネやダンパーの専用チューニングがあるので、安心感を常に実感しながら走れます。これも上質さの一因でしょう。 こうして終日走り回り、燃費計をチェックして驚きました。高速4割、山岳路を含む一般路が6割、全走行距離328.9kmを走行して、その燃費が26.4km/Lをたたき出しているのです。おまけに燃料はレギュラー。カーボンニュートラルに求められる良好な燃費性能も、プレミアムの一因と言えます。 LBXの開発のきっかけは豊田章男会長の本物を知る人が素の自分に戻れ、気負いなく乗れる1台。つまり、革靴ではなくスニーカーで乗れる高級車がつくりたい」という一言から開発がスタートしたそうです。そして「週末にジーンズとTシャツのまま乗れるカジュアルだけど上質で運転が楽しいクルマ」としてLBXが完成。その思いは、あのバンデン・プラ・プリンセスが実現していた“小さな高級車”にも通じるプレミアム感かもしれません。