【鉄道食文化】山形・米沢の郷土愛にあふれた125年続く駅弁作り
松川弁当店(山形県米沢市)
1899(明治32)年5月15日、奥羽南線福島駅―米沢駅間が開業した。当時の米沢駅は、山形県で最初の鉄道駅だった。開業のその日に鉄道作業局長官の承認をもらって、米沢駅構内で弁当の立ち売りをしたのが松川弁当店のはじまり。今年5月、創業125周年を迎えた老舗の駅弁事業者だ。 奥羽山脈を横断しているこの区間は当時から交通の難所といわれ、中でも最大の難所が板谷峠(標高755メートル)だった。豪雪地帯という自然環境に加え、33~38パーミル(1000メートル進むと33~38メートル上がる勾配)という厳しい勾配が続き、急カーブやトンネルも多く、赤岩駅・板谷駅・峠駅・大沢駅は全国でも珍しく4駅連続でスイッチバック方式が取り入れられていた。このスイッチバック方式は山形新幹線の開業により解消され、今は見ることができないが、松川弁当店には、この難所を乗り越えていく先人たちを支えてきた歴史が残る。 開業当時は、郷土料理の鯉弁当や団子などを販売していたという。栄養価が高い上に、清冽な水で育つ米沢の鯉は、身が引き締まり泥臭さがないと評判で、今でも人気の駅弁として販売している。
米沢のもう一つの特産品が米沢牛。柔らかい肉質、きめの細かい霜降で、口の中でとろけるような食感が楽しめる。その米沢牛を使って1989年には、東北地方で初の加熱式容器を使用した「すきやき弁当」、92年の山形新幹線開業時には今でも大人気の「牛肉道場」を発売した。また、今年3月のダイヤ改正で、山形新幹線の新型車両E8系が登場し、それを記念した「復刻加熱式 山形牛すきやき弁当」「やまがた祝い膳」も発売。米沢ゆかりの上杉と伊達をコラボさせた「米沢牛すきやきと鮭はらこめし」など遊び心あふれた弁当もある。 同社の林真人社長は「地域の素材を生かした郷土色豊かなお弁当作りと、日本独自の鉄道食である駅弁の文化を後世に残していくことが、私たちの使命」と話す。 文・沼本忠次 問い合わせ 松川弁当店 電話:0238・29・0141 住所:山形県米沢市アルカディア1-808-20 ※「旅行読売」2024年11月号より