大谷翔平はいかにして「動じない心」を手に入れたのか……運動科学の創始者が独自の身体論で読み解く「超一流」のメンタル
トップ・オブ・トップと呼ばれるアスリートたちが共通して持っている能力、それが「センター(軸)」だ。スーパープレーを可能にするセンターは、しかし、ただ運動面においてのみ働いているわけではなかった。運動科学の創始者としてオリンピック選手、企業経営者、そして芸術家などの指導に携わり、絶大な支持を集める高岡英夫氏が、独自の視点から大谷翔平のメンタルの秘密を解き明かす。 この記事は前編【運動科学の第一人者が発見……大谷翔平とイチローの身体に備わった「知られざる共通点」】からの続編記事です。
センターはプレー以外の場面でも活きる
ゆるんでセンター(軸)が通っていることは、その選手の意識、すなわち心のありようにも深く関わってきます。大谷翔平の立ち居振る舞いを見ていると、そのことがよくわかります。 メジャーリーグは熾烈(しれつ)な戦いの場で、選手はアメリカのみならず、世界中からの注目を一身に浴びながら、一球一球、あるいは一打一打プレーを重ねています。そのような場においては、表情が硬く、険しくなっても何ら不思議でないどころか、多くの選手にとってむしろ当然、必然というべきところです。 ところが大谷の表情はといえば、球場の真っただなかで、ピッチングやバッティングの直前にさえニコニコしていて、緊張どころか気合すら入っていないような表情をしています。 わかりやすくいえば、赤ちゃんが笑っているような表情です。それもグラウンドのなかで一瞬見せたというのではなく、“常に”というくらい見せています。 プレー以外での彼の行動も、話題になりました。たとえば、グラウンド上で小さなゴミを見つけては拾うという行為がそうです。大谷の場合は、ベンチに落ちているゴミだけでなく、出塁したとき、その塁のあたりに落ちているゴミを拾ったりもしていました。 発言も話題になりました。記憶に新しいのは、2023年の第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での「声出し」でしょう。アメリカチームとの決勝の直前、侍ジャパンが円陣を組んだところで大谷が、相手チームのスター選手の名を挙げたうえで、 「あこがれてしまっては超えられないので。僕らは今日、超えるために、トップになるために来たので」 などと呼びかけ、名言と話題になりました。