RX-8の祖先「RXエボルブ」はスポーツとセダンの二刀流!ロータリー復権の軌跡に迫る【懐かしのデザイン探訪】
RXエボルブが遺したもの
03年1月に発売されたRX-8はもちろん、RXエボルブ直系の量産車だ。商品戦略企画部でRXエボルブの企画をまとめていた片淵昇氏が、東京モーターショーと相前後する99年秋に第3プラットフォーム・プログラム開発推進部に異動して新規車種の主査を拝命。やがてRX-8の開発計画が正式に承認された。しかし、RXエボルブが遺したものはRX-8だけではない。 99年東京モーターショーで淡いブルーメタリックだったボディカラーは、2ヶ月後のデトロイトショーでは赤に塗り替えられていた。その名も「バーミリオンジャポネスク」。日本の情緒を持つ朱色という主旨のネーミングだ。 マツダは70年代のファミリアから赤にこだわってきたが、この「バーミリオンジャポネスク」から、よりマツダらしい究極の赤を探求し始める。「バーミリオンジャポネスク」に量産要件を織り込んだベロシティレッドをRX-8に採用する一方、コンセプトカーでさまざまな赤にトライしながら新しい顔料や塗装技術を開発。それがソウルレッドにつながった。お馴染みのソウルレッドの原点は00年デトロイトのRXエボルブにあった、といっても過言ではない。 もうひとつはシートである。ND型ロードスターのシートはフレームにネット素材を張り、その上に薄い発泡ウレタンを重ねている。低いヒップポイント実現するためにウレタンの厚さを通常の1/3に抑え、ネット素材が姿勢保持や振動減衰の機能を担う設計だ。このネット素材も、歴史を遡るとRXエボルブに行き着く。 RXエボルブのシートは、座面とバックレストの外周をウレタンで囲み、中央部分はネット素材だけ。広島の某シートメーカーが発案し、こだわって開発していた素材だ。強い力で張られているので座り心地は少しゴツゴツするが、ウレタンの厚み分だけ空間が広がる。おかげでRXエボルブは充分な後席レッグルームを確保できたし、低い全高でも前後席共にヘッドクリアランスを稼ぐことができた。RXエボルブにネット素材を提供したシートメーカーがND型のシートを生産しているのは、言うまでもない。 コンセプトカーは、その後の量産車にいろいろなものを遺すものだ。何が遺るのかをリアルタイムで見抜くのは難しいが、こうして懐かしいコンセプトカーに再会するのは、そこに秘められていた意義を掘り出す機会になる。コンセプトカーの奥深さを、あらためて再認識させてくれたRXエボルブだった。
千葉 匠