AED解禁20年で8000人救命「市民が救命の主役になるパラダイムシフト起きた」…使用率の低さ課題
心停止した人の救命処置を行う際に用いるAED(自動体外式除細動器)を一般市民が使用できるようになり、今年で20年を迎えた。設置数の増加とともに助かる人は増えているものの、人前で倒れた患者に使われたケースはここ数年4~5%と低迷が続く。専門家は使用率の向上に向けた対策が急務だと指摘する。(中村直人) 【グラフ】市民のAED使用率と救命された人の推移
福岡市中央区の市消防局講堂。救命講習を地域や職場で行える「応急手当普及員」を目指す約20人を前に、指導員の富田貢さん(70)らがAEDの使用法を説明した。参加者は、患者に見立てた人形にAEDの電極パッドを取り付けたり、心臓マッサージを繰り返したりして、緊急時の手順を確認していた。
参加した市内の専門学校生(19)は「パニックにならずに大切な人の命を救えるよう、身近な人にも伝えていきたい」と語った。
市消防局はこうした講習を年に約1300回開いている。担当者は「心肺停止の人を救命する上でAEDは非常に有効。引き続き多くの方に受講してもらいたい」と話す。
心臓のポンプ機能が失われる心停止を放置すれば、1分ごとに7~10%ずつ救命率が低下するとされる。一方、救急車が現場に到着するまでの時間は全国平均で約10分。その場に居合わせた人による救命処置が重要となる。
AEDは医療機器のため、医師や救急救命士らに使用が限られていたが、2001年に航空機の客室乗務員に拡大。02年にスカッシュのプレー中だった高円宮さまが心室細動で急逝されたことなどを機に議論が進み、厚生労働省は04年7月、医療従事者以外が使っても「医師法違反にはならない」とする通知を出し、「市民解禁」となった。
総務省消防庁によると、市民によるAED使用で救命された人は05年には12人だったが、22年は約50倍の618人に上った。これまでに累計で8000人以上が助かったとされる。京都大の石見拓教授(蘇生科学)は「市民が救命の主役になるという、パラダイムシフト(枠組みの転換)が起きた」と意義を強調する。