【これが墓地の主流に?】急増する樹木葬は本当に環境に良いのか?“自然循環”への理想と現場の実態の乖離
樹木葬はどう生まれたのか
樹木葬という墓地を最初に開いたのは、岩手県一関市の知勝院の千坂嵃峰(げんぼう)住職(当時)である。1999年のことだ。里山を整備して、お骨を地面に直に埋葬するものだった。そしてその脇に記念樹を植える。 故人の名は小さな木片に記されるが、時とともに土に還る。一人一墓、永代供養、宗教宗派も問わないなどの形式を考えたのも、千坂住職だった。 この樹木葬には、里山再生という目的があった。荒れた山を整備し、墓標とする樹木を育てることで、森を復活させようと考えたのだ。また遺族は樹木を目印に墓参りするが、墓の継承者がいなくなる将来は森になり、お骨も土に還る、と考えたのである。 なお遺骨を粉にして海や山に撒く散骨も、ほぼ同時期に広がっている。こちらは自然葬とか循環葬と呼ばれる場合もある。樹木葬の中にも遺骨を埋めるのではなく森に撒く形式もある。いずれも遺体・遺骨を自然界に還す発想と言えるだろう。 こうした埋葬法の選択は、当の本人が望み、生前に永代供養してくれるところを探して契約することが多い。この点も「終活」ブームと結びついているのだろう。
「自然に還す」で世界でも浸透
実は、こうした傾向は世界的に起きている。というのは、埋葬が環境問題になってきたからだ。 欧米では土葬が主流だが、それだけに面積が広く必要なため、墓地の土地不足に陥った国もある。そこで遺体を埋葬後に自然に還ることが求められた。 ドイツやスイスでは、森を墓地とする樹木葬が広がっている。林業家が墓地の運営も行うのである。 米国でも自然の中に埋葬する墓地は増えてきた。埋葬地に豊かな生態系を誕生させたことで、自然保護区の一部に指定された事例もある。 韓国は、もともと土葬で大きな墓をつくる伝統があった。しかし、墓地によって森林破壊が進む傾向が強まり、火葬が推進されるとともに、樹木葬と散骨を国の制度として推奨している。ほかに台湾や中国でも、樹木葬や散骨は広がっている。 もともと墓は、死後も後世に自らが生きた証を残す意味があった。復活を願う信仰もあったのだろう。しかし、現代では自然に還りたいという思いが世界的に広まりつつあるようだ。同時に環境に優しくありたいという発想が強まっている。