ユダヤ系知識人のトッドが沈黙を破った「イスラエルがガザで行なっていることは、おぞましい。本当におぞましい」
「話したくないが、今は話さなければならない」
トッド氏は「イスラエル・ガザ紛争」について積極的な発言を控えてきたが、エスカレートする事態を前にして「沈黙」を破る決断をしたという。 〈私はシオニストでも反シオニストでもありませんでした。ユダヤ国家に最低限の連帯を示すのが分別のある態度だという考えだけをもっていました。(略) ですから〔ガザでの戦闘が始まった〕当初、私はかなり微妙な態度をとっていました。しかし、イスラエル国家の振る舞いは、道徳的にあまりにも問題があります。私はまだこのことについて話したくないのですが、今は話さなければなりません。 ――なぜですか。 イスラエル国家の暴力の行使が極端なレベルに達しているからです。そして何より暴力自体が自己目的化しているように見える。ですから私は、イスラエル国家の行動を「ニヒリズム」の観点から考察し始めたのです〉
「暴力の行使」が自己目的化してしまった
〈私は 『西洋の敗北』 〔大野舞訳、文藝春秋〕という新著で「ニヒリズム」という概念を提示しました。ニヒリズムとは、「物や人々や現実を破壊したい」という欲求や衝動のことで、今日の西洋における宗教的、形而上学的、価値観の「空白」から生じているものです〉 〈イスラエルは国家としての意味を見失い、かつては国家の安全保障に不可欠な軍事手段だった「暴力の行使」が、自己目的化してしまったという印象を受けます〉 〈イスラエルがガザで行なっていることは、おぞましいことです。本当におぞましい。しかし私がより気になるのは、今後の展開です。これを残虐行為と見ている人たちは、これがまだ始まりにすぎず、今後、事態がさらに悪化することに気づいているのでしょうか。暴力のダイナミズムはすでに動き出し、それを止めるものは何もありません〉 エマニュエル・トッド氏が「イスラエル・ガザ紛争」について初めて見解を示した「 イスラエルは神を信じていない 」の全文は、1月10日発売の「文藝春秋」2月号(「 文藝春秋 電子版 」では1月9日公開)に掲載されている。
「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2025年2月号