だから「健康な中華」という新常識を作れた…「ぎょうざの満洲」女性社長が創業者の父から言われたひと言
■独特な出店戦略 地道に店舗拡大をする同社の歩みは、狩猟型/農耕型に分けると間違いなく後者だ。数値目標に突き進む会社ではない。 「ありがたいことに出店オファーも多くいただきます。最近では東京23区内の駅前店舗を見たビルオーナーの方から、同じ沿線でご自分が所有する駅ビルに出店しないかとお声がけをいただいて出店に至りました」 出店の基本は、工場から90分以内に配送できるエリア。そして都心ではなく都心に向かう沿線の駅前や駅構内の商店街。こうした場所は天候に左右されにくいからだ。 興味深いのは、閉店する店舗がほとんどないことだ。売り上げが悪くてもすぐに撤退しないのは、「地域の顔になるまでは時間がかかる」と考えているからだそう。 家賃の上限を決め、既存店の売上高が前年を下回ったら、翌年は出店を抑えるという堅実な出店戦略をとっている。 関西に出店したのは2012年9月で、前年に起きた東日本大震災で出店エリアのリスクヘッジ(危機管理・対応)をしたという。 ぎょうざの満洲の店舗で例外といえるのが、群馬県・老神(おいがみ)温泉にある旅館「東明館」の開業(2010年)だ。ここは先代・金子氏の故郷だった。社内の猛反対を押し切って決断したという。同館ではほぼ「ぎょうざの満洲」と同じメニューを楽しめる。 「開業時は『温泉旅館で中華なんてうまくいくはずがない』という声もありましたが、現在は浸透。逆に『中華料理が食べられる温泉旅館』として予約される方も多く、リピーターも増えました」 ■だから上場はしない 自分のために働きなさいと、父・金子氏は言った。では現在、池野谷社長は何のために仕事をしているのだろうか。筆者には「自分」だけではなく、家族、そして従業員、さらにはお客のために働いているように見える。 近年、池野谷氏には「上場しないか」というオファーも多いが、そのつもりはない。 「原材料費は3割を維持、人件費・その他経費が3割ずつ、残りの1割が利益になり、お客さまに還元できるように努めてきました。上場して利益を過度に追求するとそれが難しくなってしまう。 当社で働く方には、兄弟で勤務される方もいれば、親子2代でという方もいます。ありがたいことに、われわれの掲げる経営に満足していただく方が多いのだと思っています。ですので、これからも地道に『3割』の経営を続けていきたいと思っています」 ---------- 高井 尚之(たかい・なおゆき) 経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)、2024年9月26日に最新刊『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)を発売。 ----------
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之