吉田沙保里の遺伝子を次ぐ次世代姉妹
7年後の東京五輪を姉の里菜は24歳、妹の春菜は21歳で迎える。 「48kg級は強い選手が多くて日本代表になるのがとても大変だけれど、そのなかで勝って沙保里さんのようになりたい」(里菜) 「ちょうど、沙保里さんがアテネ五輪に出たときと同じ年齢で東京五輪になる。教えてもらっていることは同じだから、私も沙保里さんと同じようになりたい」(春菜) 姉妹を指導する吉田沙保里の父、栄勝さんも7年後に期待している。 「大人しくて几帳面な姉と元気な妹。今はふだんの練習相手が小さな子どもばかりだから、どうしてもパワーとスタミナがつけられない。それでも、あれだけの結果を残せているのだからたいしたもんですよ。2020年東京五輪の頃には二人とも金メダルを狙えるいい選手になりますよ。子どものうちに身近な人が金メダルをとるのを見て、成長して自分も金メダルをとろうとする。金メダルがつながってゆくのはいいことだね」 俊敏な動きで相手を翻弄する姉の里菜と、手取りのタックルともつれたときが得意だという妹の春菜。せいかく対照的な二人だが「走るのだけは苦手」と口をそろえる。中学生のエリート合宿で走ったとき「私が一番、遅かったんですよ」と春菜が不満そうに言うと、里菜も眉間にしわを寄せながら「私も走るのは本当にダメ」と続ける。 全国の選手が集まる合宿で感じた基礎体力づくりの不安を訴える姉妹に、栄勝さんは「沙保里も、走るの得意じゃないよ。子どもの頃から教えている私が走るのが苦手だからね。馬じゃないんだから、そんなに走ることばかり気にしなくていいんだよ(笑)」と目を細める。 得意なことも不得意なことも、最強と呼ばれる吉田沙保里の遺伝子は、金メダルの記憶によって次世代の選手へと受け継がれている。7年後、東京五輪で吉田自身がマットの上に立っているかどうかは、本人もたびたび口にするようにわからない。しかし、同じ魂をもつ選手が活躍するのは間違いなさそうだ。 (文責・横森綾/フリーライター)