情報BOX:トランプ次期米政権下で注目される医療関連訴訟
Brendan Pierson [26日 ロイター] - トランプ次期米大統領は来年1月の2度目の就任に際し、バイデン政権の医療政策に異議を唱える訴訟を多数引き継ぐことになる。トランプ氏にとってこれらの訴訟は、新たな規則や法案の可決に先立って即座に政策を変更する機会となり、次期政権の姿勢を早期に知る手がかりとなるかもしれない。注目すべき訴訟の一部を紹介しよう。 ◎人工妊娠中絶 最も注目されている訴訟の多くは、2022年の米最高裁判決で州による人工妊娠中絶禁止が認められたことを受け、中絶の権利をめぐるものとなっている。トランプ氏は選挙戦中、中絶に関する具体的な政策を提示することを避けていたが、新政権はいくつかの係争中の訴訟で立場を明らかにする必要が出てくる。 そのうちの1件は共和党が主導する3つの州が起こしたもので、中絶薬ミフェプリストンの配布を制限するよう求めている。バイデン政権下の米食品医薬品局(FDA)は近年、この薬に対する規制緩和を擁護してきたが、トランプ次期政権下では方針を転換する可能性もある。 別の事例では、医療上の緊急事態における中絶が問題となっている。22年、バイデン政権はアイダホ州を提訴し、同州のほぼ全面的な中絶禁止は、医療上の緊急事態において患者を安定化させるよう病院に義務付ける連邦緊急医療治療・労働法に違反する可能性があると主張した。 バイデン政権は、医療上の緊急事態においてアイダホ州が中絶禁止を施行することを禁じる裁判所の命令を勝ち取った。同州は控訴している。 高裁がバイデン政権の意向に反する判決を下した場合、トランプ氏は控訴せずにアイダホ州による法律の施行を許し、この問題に関するバイデン政権の姿勢から決別するチャンスを得る。 ◎薬価 バイデン政権は「インフレ抑制法」の一部である目玉政策のひとつとして、一部の薬品価格について、製薬会社が高齢者向け公的医療保険「メディケア」と価格交渉を行うことを義務付けている。この措置に対して業界から多数の訴訟が起こされているが、そのほとんどは地裁レベルで敗訴している。ただし、そのうちの1件は高裁で最近復活した。 業界は、トランプ氏と議会多数派となる共和党に対し、法の施行を見直し、新薬が交渉対象となる前に、市場での独占状態を保証される期間を延長するよう働きかけている。 トランプ氏がこの制度の全面的な廃止を試みることはないと見られている。ただ、次期政権は直ちに、期限や高額な罰則金など、この制度のあらゆる側面を法廷で擁護するかどうかという選択に直面することになる。擁護しない場合、裁判所はこの制度を徐々に骨抜きにしていく可能性が高まるだろう。 ◎予防医療 「オバマケア」では、医療保険プランががん検診、特定のワクチン、HIVへの曝露前予防措置などの予防医療サービスをカバーするよう義務付けている。20年にテキサス州のキリスト教系企業がこれに異議を唱える訴訟を起こし、バイデン政権はオバマケアの義務を擁護してきた。 高裁は今年、米保健福祉省は現時点ではこの義務を継続できるが、カバーすべきサービスを選択する方法は違憲であるとの判断を下した。これにより、カバー範囲が今後どうなるかは不透明になっている。 トランプ次期政権がこの件にどう取り組むかは不明だ。特に、トランプ氏が長年のワクチン反対論者であるロバート・ケネディ・ジュニア氏を厚生長官に指名したことで、不透明感が強まった。主要な医療団体は、保険適用義務がなければ公衆衛生が損なわれる可能性があると警告している。 ◎未成年トランスジェンダーに対する医療 バイデン政権はトランスジェンダーの未成年者に対する医療を巡る訴訟の一つとして、思春期遅延薬やホルモン療法などの性別移行治療を禁止するテネシー州法に異議を申し立てており、最高裁が判決を下す予定となっている。 しかし、今年初めに保健福祉省が定めた、メディケアおよびメディケイド(低所得者向け医療保険制度)の受給者が性自認を理由に差別することを禁じる規則を巡る訴訟は、まだ係争中だ。共和党州による異議申し立てを受けて、連邦判事はこの規則の施行を一時的に差し止めた。 トランプ氏は、バイデン政権のトランスジェンダー問題へのアプローチを批判しており、1期目に同様の保護措置を撤廃した。この規則を完全に撤回するには時間がかかりそうだが、トランプ政権下の保健福祉省は直ちに法廷でこの規則を擁護することを直ちにやめるかもしれない。 ◎介護施設の職員配置 今年初め、バイデン政権は、介護施設入居者の虐待や放置を厳しく取り締まるという公約に従い、メディケアおよびメディケイドの資金を受けている介護施設の職員配置に関する新たな規則を発表した。 この新しい規則は数年にわたって段階的に導入される予定だ。介護施設には24時間体制で正看護師を配置し、入居者1人当たり1日最低3時間半の看護師の配置を義務付けることになる。連邦法は以前、介護施設に1日8時間連続で正看護師を雇用するよう義務付けていた。 業界団体と共和党州の司法長官グループは、この規則について政権を提訴し、全国的な看護師不足を考慮していない、また、この規則を順守できないために地方の介護施設が廃業に追い込まれる可能性があると主張している。 トランプ氏と共和党は規則を廃止すると広く予想されている。この規則については一部の民主党議員も反対している。次期政権は、規則を擁護するのをやめることで、廃止の意思を直ちに表明し、速やかな廃止に道を開く可能性もある。