日本の国内投資は減少しているウラで、伸びている「投資の正体」
この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか? 【写真】いまさら聞けない日本経済「10の大変化」の全貌… なぜ給料は上がり始めたのか、経済低迷の意外な主因、人件費高騰がインフレを引き起こす、人手不足の最先端をゆく地方の実態、医療・介護が最大の産業になる日、労働参加率は主要国で最高水準に、「失われた30年」からの大転換…… 注目の新刊『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。 (*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)
省人化のためのソフトウェア投資は緩やかに増加
日本においては、国内投資は過去のような勢いでは伸びていかない状態が続いている。それは、国内のマーケットがこれ以上拡大していかないことに企業が気づいているからである。人口減少が約束されている日本の市場において、生産能力を増強するような設備投資はこれからも趨勢として伸びていくことはないだろう。しかし、だからといってすべての投資が日本国内から失われていくわけではない。 財務省「法人企業統計」から設備投資の動向を確認していくと、その中身が少しずつ変わってきている様子が確認できる。省力化のための投資が伸びているのである。 図表1-35は同統計から設備投資(ソフトウェア投資を除く)とソフトウェア投資の推移を表したものであるが、有形の固定資産投資が抑制されている一方で、ソフトウェア投資は長期的に拡大している様子が確認できる。 ソフトウェアを除く設備投資については、2023年で50.1兆円となっており、リーマンショック前の水準(44.3兆円)と比べて大きくは成長をしていない。一方で、ソフトウェア投資については7.9兆円から13.8兆円へと堅調に伸びている。 従来型の設備投資が能力増強のための投資であって、ソフトウェア投資はそうではないといった明確な区分けは難しいものの、後者の投資が効率化や省人化のための投資の色合いが強いということは確かだろう。 ソフトウェア投資が伸びている業態を見てみると、たとえば建設業や小売業があげられる(図表1-36)。 建設ではBIM(Building Information Modeling)による建設設計が普及し、建設機械の自動化施工も広がりを見せている。また、小売業ではセミセルフレジやセルフレジの導入が本格化してきており、多くの事業者が少ない人手で効率よく生産できる体制を整え始めている。 多くの人にとってなじみが深い事務の領域でみても、ビジネスチャットやweb会議ツールをはじめ、会計ソフトや勤怠管理ソフト、経営に関するさまざまな情報を統合的に管理するクラウドサービスなど効率化のためのさまざまなシステムが近年浸透してきている。 このように設備投資というと、工場などで生産能力拡大のために産業機械を導入するといった従来型の投資を思い浮かべる人が多いだろうが、情報技術の革新によってソフトウェアに比重が移りつつある。人手不足業種を中心に省人化のための投資はこれからも広がっていくだろう。 近年の日本の資本市場においては、国内マーケットの縮小懸念から投資需要が抑制され、金利も長く低い水準に抑えつけられてきた。そして、財・サービス市場でもデフレーションが進行する中で、実質政策金利を自然利子率以下の水準まで引き下げることができない、いわゆるゼロ金利制約に長く悩まされてきた。このような構造も労働市場がひっ迫していくこれからの経済環境の中では、変わっていく可能性が高い。 サービス関連業種の投資に関しては額自体がそこまで多くないことから、設備投資全体の基調をけん引していくかまではわからない。また、中小企業も含めてあまねく企業に先進資本の導入が進んでいくためには、新しい技術に安価にアクセスできる環境が不可欠であり、そのためにはさらなる技術革新を待たなければならない。 しかし、労働力が希少なものとなり、賃金水準がますます高騰する未来において、資本への代替の動きはさらに活発化していくだろう。人手不足による労働市場からの圧力が、日本経済のデジタル化を推し進めるのである。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)