「知ることから始めよう」―偏見や差別をなくすために:日本人ムスリムの訴え
アジアの中心的なモスクへ
イスラム教徒の増加は世界的な傾向だ。米調査機関ピュー・リサーチ・センターが22年12月に発表した推計によると、20年の世界の宗教別人口構成は、キリスト教徒が約23億8000万人(世界人口比31.1%)で、イスラム教徒は約19億700万人(同24.9%)だった。50年にはキリスト教徒は約29億1800万人(同31.4%)、イスラム教徒は約27億6100万人(同29.7%)に達し、ほぼ並ぶとみられている。(※1) (※1) Pew Research Center. “Religious Composition by Country, 2010-2050.” Pew Research Center, December 21, 2022.
また、20年におけるイスラム教徒の数は、中東・北アフリカ地域が約3億8100万人であるのに対し、アジア・太平洋地域は約11億4000万人と推計されている。イスラム教が誕生した中東よりも、アジア・太平洋地域にムスリムが多いのだ。同地域から東京ジャーミイを訪れるムスリム旅行者は、この10年間で飛躍的に増加しており、今後も増え続けるとみられる。
下山さんは「東京ジャーミイは、もっとアジアの人々が行き交う『アジアのモスク』になる」と語り、「グローバルな普遍的宗教」の中心地として、東京ジャーミイの役割はますます高まると期待を寄せる。
イスラム教が日本に根付くかどうかは未知数だが、下山さんは日本でイスラム教について発信する意義を訴える。「無知は偏見を生み、偏見は差別を生む。だから、日本人がイスラム世界の良き理解者、良きパートナーとなって共に歩んでくれるかが大事なのです。かといって、僕はイスラム教徒になることを期待しているのではありません。外見が違っても、人と人とは同じだという視点を育んでほしい」 撮影:土師野幸徳(ニッポンドットコム編集部)
【Profile】
下山 茂 2010年から東京ジャーミイ・トルコ文化センターに勤務し、現在は広報・出版担当。1949年岡山県生まれ。1969年早稲田大学政治経済学部政治学科入学。在学中、早稲田大学第2次ナイル河全域踏査隊の一員としてアフリカのスーダンへ赴く。1年に及ぶ滞在中、ムスリムの村を転々とする。帰国後、出版社勤務を経てイスラーミックセンター・ジャパン設立に参画した。メッカ巡礼、フィリピンで分離独立運動を展開したモロ民族解放戦線(MNLF)などイスラム地域の取材多数。『アッサラーム(イスラムの総合雑誌)』『イスラーム入門シリーズ(礼拝・喜捨・断食・巡礼他)』『ワクフ――その伝統と作品』『ムスリムの考え方を知る』などイスラム関連図書の編集・出版に携わる。 住井 亨介 全国紙で警視庁や宮内庁の担当記者、海外特派員などを経験し、現在ニッポンドットコム編集部チーフエディター。ハーバード大学客員研究員として「北朝鮮による拉致問題」を研究した。国内外における幅広い分野のニュースに関心を寄せる。