混迷続くウクライナ 大国の思惑と経済再建 ── 立正大・蓮見教授に聞く
ウクライナをめぐるEUとロシアの間の駆け引きはこれまでも長年続いてきた。だが、今回のウクライナにおける一連の政変には米国も関与を強めており、これまでとは様相が異なってきている。クリミア問題が長引き、ウクライナ経済のデフォルト(債務不履行)が現実味を帯びれば、世界的な経済危機へと波及しかねない。大国の思惑はどこにあるのか。そして、ウクライナ経済再建への道筋とは。EU・ロシアの経済関係とエネルギー安全保障問題に詳しい立正大・蓮見雄教授に話を聞いた。(河野嘉誠)
欧州主要国は「新冷戦」望まず
ウクライナをめぐりEUとロシアの間で緊張関係が続いている。しかし、ロシアはもはやソ連ではない。政治的判断よりも市場経済の論理を概して優先する。歴史的経緯もあり、クリミアでは安全保障上の利害が先立っているが、EUとロシアの経済関係は緊密だ。関係の悪化は両者にとってメリットにならない。経済制裁を強く求める米国は別として、少なくとも欧州主要国は「新冷戦」など望んではいない。 EUは天然ガスの3割をロシアから輸入している。だが、現在ではエネルギーの輸入元を多角化させ、もはやロシア依存とはいえない。エネルギーミックスも多様化し、すでに2割近くが再生可能エネルギーだ。EUは2012年、2013年にロシアに天然ガスの価格割引を要求し、ロシアはやむなくこれを受け入れている。 背景にあるのはシェール革命だ。アメリカに入るはずだったカタールのLNG(液化天然ガス)がEUのスポット市場に流れ込んだ。天然ガスの価格が急激に下落し、ロシアは大口の輸出先であるEUに対しキャッシュバックに応じざるをえなくなった。 つまりEUにとってエネルギー市場は「買い手市場」となっている。今回のウクライナ動乱でも、EU側はサウスストリーム建設の交渉凍結を対露交渉カードとして利用しているほどだ。ロシアもこのことは十分理解しており、必要以上の緊張は避けたいはずだ。