混迷続くウクライナ 大国の思惑と経済再建 ── 立正大・蓮見教授に聞く
ウクライナのEU加盟 当面ありえない
キエフに新欧米の暫定政権ができ、欧州委員会はウクライナの暫定政権に対して110億ユーロ(約1兆5400億円)の包括支援策を発表した。EUやIMFの支援により、ウクライナのデフォルトは防がれるだろう。 だが、これは何もウクライナを助けるためではなく、国際金融市場を守るためだ。デフォルトが防げなければ、市場からG7は危機を防ぐ能力がないと判断される。EUとしても銀行同盟などユーロを支える制度が動きだす大事な時期に、ウクライナのデフォルトは何としても避けたいはずだ。 一方で、EUが最後までウクライナの面倒を見るかは疑わしい。ヤヌコビッチはEU接近を目指していたが、EUに支援を断わられたため、ロシアに頼らざるをえなくなった。EUが本当にウクライナの経済を助けるつもりならば、昨年11月の段階でもう少し積極的に支援をしたはずだ。 ティモシェンコ氏は「ウクライナは近くEUに加盟する」と宣言したが、当面はあり得ない。EUの対外関係には、加盟国、加盟候補国、潜在的加盟候補国、欧州近隣諸国という4つのカテゴリーがある。ウクライナは、このうちEUとの結びつきが最も小さい欧州近隣諸国にすぎない。 たしかに、東方パートナーシップというEUとの関係強化を強調した枠組の対象国ではあるが、これは加盟を前提としていない。欧州委員会も指摘しているが、EUとの「連合協定は加盟の第一歩」というのは神話にすぎず、いますぐ加盟という話にはならない。
ウクライナの国家再生 まずは経済再建を
ウクライナの国民が不満を募らせ、今回の政乱に至った背景にヤヌコビッチ政権の経済失政がある。ウクライナ経済は2010年と2011年の二年間は比較的良好だった。しかし、2012年にEU経済が再び落ちこんだ影響で、EU向けの輸出が落ちた。さらに2011年にはIMFの融資も打ち切られている。 一連の経済打撃を受け、ウクライナでは実効法人税率が29%(12年第1四半期)から41%(13年第1四半期)に引き上げられた。オリガルヒ(新興財閥)はタックスへイヴン(租税回避地)により法人税率の引き上げの影響を回避したが、政権の息のかかっていない企業は苦労している。つまり、多くの国民が働く中小企業の経営が悪化し、国民生活は疲弊した。 EUとロシアはこれまで、連合協定やユーラシア関税同盟などによりウクライナを経済的に取り込もうとしてきた。二つの貿易協定は対立して挙げられることもあるが、共に自由貿易を推進するものであり、本質的な差はない。 問題は、ウクライナが自由貿易の枠組みに取り込まれたときに、国内の産業が整っていなければ、現状と変わらず貿易赤字が広がるだけという点だ。ウクライナの2012年の対外貿易赤字は195億ドルだ。そのうち91億ドルはEU、98億ドルはロシアに対する赤字だ。自由貿易を推進し、農産物や鉄鋼製品の関税が下がれば輸出はある程度増える。だが今のままではそれ以上に輸入が増えてしまうだろう。