養老孟司『田んぼ?俺とは関係ない』と思っている今の子に伝えたい、自分の延長とは?戦後、薪割りや湯沸かしが私の仕事だった
◆今の子が嫌がる自分の延長 2022年に、講談社から絵本『「じぶん」のはなし』(絵・よこやまかんた)を出しました。 みんなのからだを大きくするための材料は、田んぼや畑、海や山でとれた植物や動物だと伝え、こう書きました。だから、「たんぼも、じぶん」「はたけも、じぶん」……。「じぶんは しぜんで できている。そうでしょ?」 でも、今の若い人はそう思っていない。田んぼ? 俺とは関係ねえ、と思っている。それどころか自分の吐いたつばを汚いと思い、うんこも今の子は汚いと嫌がる。どっちも身体の中にあったもので自分の延長です。それを汚いと思うのは、自分の延長である死体を汚らわしいと思うのと同じです。
◆養老孟司への質問 Q.箱根の養老山荘では、どんな暮らしですか。 A.週に3日ぐらいは来て、もっぱら一人で虫の整理。そのために生きているようなもんです。昼食は抜くことが多い。要するに面倒くさい。食卓に向かうのも僕にとっては作業。標本づくりのような細かい作業をしていると、作業がぶつかるからです。 夜寝る時間は決まってません。ただ、虫の整理をしていると、早く寝てどうするって感じ(笑)。少々眠くなっても作業はできるが、ある程度以上眠くなると、やめて横になる。そして、やりかけたことを次の日にどう整理するか、イメージトレーニングしながら寝る。とにかく未整理の虫が大量にあるんで、片づけたいの一心です。 作業すると腰が痛くなるので休憩はいれる。ただぼけっとするのもなんなので、本を読んだり、ドラマを観たり、楽なことをしています。最近は老眼で本が読みにくいよ。 60代、70代までは、すすきの原っぱを横切って30分ほど行くとある森まで、猪の足跡しかないような山道を散歩しながら虫採りをしていました。今はもう、体力がないし、危険だからダメですね。 ※本稿は、『なるようになる。――僕はこんなふうに生きてきた』(中央公論新社)の一部を再編集したものです
養老孟司
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